サーリフ・ブン・ミルダース

アブー・アリー・サーリフ・ブン・ミルダース：ミルダース朝の創始者

アブー・アリー・サーリフ・ブン・ミルダース（生年不詳 - 1029年5月）は、ミルダース朝の創始者であり、1025年から1029年までアレッポのアミールとしてシリア北部を支配しました。彼は「国家の獅子」を意味するアサド・アッ＝ダウラという尊称でも知られています。

生い立ちと出自

サーリフは、シリア北部で勢力を持っていたアラブ部族、キラーブ族の名家に生まれました。彼の家族はアレッポの南西に位置するキンナスリーンを拠点としていました。キラーブ族は、当時アレッポに住む多くのイスラム教徒と同様に、シーア派の一派である十二イマーム派を信仰していました。

キラーブ族は、7世紀のイスラム教徒の征服活動の初期にシリアへ移住し、ジャズィーラ（メソポタミア北部）とアレッポ周辺の草原地帯に拠点を築きました。彼らは軍事力と組織力によってシリア北部で強大な勢力となり、アレッポの支配をめぐる争いにおいて重要な役割を果たしました。

ラフバのアミール

サーリフが歴史に登場するのは、1008年にユーフラテス川沿いの要塞都市ラフバの支配権をめぐる争いです。彼は地元の支配者イブン・ミフカーンの要請を受け、軍事支援を行いましたが、後に両者の関係は悪化し、サーリフはラフバを包囲しました。その後、イブン・ミフカーンが暗殺されると、サーリフはラフバを占領し、ファーティマ朝への忠誠を表明しました。

キラーブ族の最上位のアミールへ

1009年から1012年にかけて、キラーブ族はアレッポの支配権をめぐり、マンスール・ブン・ルウルウと対立しました。マンスールはキラーブ族を陥れようとしましたが、サーリフは投獄から脱出し、キラーブ族を率いてマンスールを打ち破りました。1014年7月3日の夜に足かせを一つ付けたまま城塞の壁から飛び降り、夜の間は排水管に隠れ、その後マルジュ・ダービクのキラーブ族の野営地で部族民と合流しました。マンスールは捕らえられ、アレッポの歳入の半分をキラーブ族に分配することで釈放されました。この結果、サーリフはキラーブ族の最上位のアミールとしての地位を確立しました。

ミルダース朝の成立

サーリフは権力を拡大し、マンビジュやバリスなどの都市を占領し、ジャズィーラの一部を支配下に収めました。しかし、マンスールが約束を反故にしたため、再びアレッポを包囲し、攻撃を加えました。1016年1月にアレッポの城塞の司令官のファトフ・アル＝カルイーがサーリフの政権を承認して反乱を起こし、マンスールはアレッポから逃亡しました。

1023年、サーリフはタイイ族とカルブ族との間で軍事同盟を結び、ファーティマ朝に対抗しました。この同盟により、シリアはベドウィンによる三つの勢力に分割されることになりました。サーリフはアレッポとシリア北部を支配し、タイイ族がパレスチナ、カルブ族がシリア中部を支配しました。しかし、この同盟は長くは続かず、1028年にはファーティマ朝がタイイ族と和解し、カルブ族の族長が死去したことで弱体化しました。

アレッポの征服

1024年、サーリフは再びアレッポに向けて進軍し、ファーティマ朝の総督を破って都市を占領しました。彼はアレッポの住民に安全を保障し、都市の支配者となりました。1025年1月18日に都市で生き残っていたかつてのハムダーン朝のギルマーンの頭目であるサーリム・ブン・アル＝ムスタファードがキンナスリーン門をサーリフのために開門しました。

アレッポのアミールとして

サーリフはアレッポを拠点として、よく組織された統治体制を確立しました。彼はワズィール（宰相）を任命して民事と軍事を担当させ、シーア派のカーディー（裁判官）に司法を監督させました。また、シドン、バールベック、ホムスなどの都市を支配する代官を任命しました。彼の政権はファーティマ朝によって承認されましたが、最終的にはファーティマ朝の将軍アヌーシュタキーン・アッ＝ディズバリーとの対立に発展しました。

死とその後

1029年5月、サーリフはティベリアス湖東岸のウクフワーナでアヌーシュタキーンとの戦いに敗れ、戦死しました。彼の死後、息子であるナスルとスィマールが後を継ぎましたが、ミルダース朝の支配は一時的に中断されました。しかし、スィマールは後にアレッポの支配を回復し、ミルダース朝は1080年までアレッポを支配し続けました。

歴史家のティエリ・ビアンキは、サーリフについて「キラーブ族の先祖が一世紀にわたって目標としていた計画を成功に導いた」と評しています。彼の生涯は、武力と外交を駆使してシリア北部に勢力を拡大し、独自の統治体制を確立したアラブの指導者として、歴史に名を刻んでいます。

もう一度検索