ザテトラーク

ザテトラーク：伝説のサラブレッド競走馬

1911年、アイルランドで生まれたザテトラークは、その独特の斑点模様と並外れたスピードで競馬史に名を刻んだ競走馬です。イギリスでは20世紀最強の2歳馬と評され、種牡馬としても大きな成功を収めました。しかし、その生涯には数々のドラマと逸話が残されています。

奇妙な容姿と驚異的なスピード

ザテトラークは、栗毛の体に芦毛と黒毛のまだら模様が入り交じる、独特の斑点模様を持っていました。この珍しい毛色は、7代前の祖先や母の祖父にまで遡る遺伝子の影響だと考えられています。その容姿から当初は低く評価されていましたが、その走りは誰もが驚くほどのものだったのです。

1913年のデビュー戦では、スタート直後から他馬を圧倒的な差で引き離し、見事勝利を収めました。その後も、ウッドコートステークスやコヴェントリーステークスなど、数々のレースで圧勝。コヴェントリーステークスでは、公式記録では10馬身差でしたが、実際には50馬身もの大差をつけたと言われています。

しかし、ザテトラークには「気に入らないことがあると、その場で動かなくなる」という奇妙な癖がありました。そのため、レースではアクシデントに見舞われることもありました。それでも、その類まれなスピードと才能は、多くのファンを魅了しました。

短い競走生活と種牡馬としての成功

1914年、調教中に負傷したため、わずか7戦7勝という輝かしい成績を残して競走馬としてのキャリアを終えました。その短い期間で、彼は11336ポンドもの賞金を稼ぎ出し、「セントサイモンの再来」とまで言われたほどです。

その後、種牡馬となったザテトラークは、バリーリンチ牧場で繋養されました。種付け料は当初300ギニーでしたが、その人気から500ギニーにまで高騰しました。1919年にはイギリスのリーディングサイアーにも輝き、多くの優秀な産駒を輩出しました。しかし、ザテトラークは種付けを嫌うという、彼独特の性格を持っていました。種付けの途中でやめてしまったり、わざと尾の付け根を痙攣させたりと、種付けを嫌がるための手段は非常に巧妙だったといいます。

奇妙な習性と名高い血統

ザテトラークは種付け以外にも、薬を飲むことや見知らぬ人間による装蹄を嫌っていました。彼の気難しい性格は、周囲の人々を悩ませることもありました。また、薬を嫌いになったきっかけは、アロエの丸薬の苦味だったと伝えられています。

ザテトラークの血統は、競馬界においても大きな注目を集めています。「奇跡の血量」と呼ばれる配合理論においても、彼の血統は重要な役割を果たしました。この配合理論は、名馬の孫と曾孫を交配することで、優れた能力を引き出すという考え方です。1951年の東京優駿優勝馬トキノミノルが、ザテトラークの3×4クロスを持っていたことで、日本でもこの理論が注目を集めました。

ザテトラークの遺産

1935年、ザテトラークはバリーリンチ牧場で亡くなりました。種付けのできない種牡馬は殺処分されることも多かった時代において、彼の死は多くの人々に驚きをもって迎えられました。しかし、彼の血統はその後も、競馬界に大きな影響を与え続けました。代表的な産駒であるテトラテマやムムタズマハルは、それぞれ優れた競走馬として活躍し、ムムタズマハルの子孫には、ナスルーラ、マームード、シャーガーといった名馬が数多く含まれています。

ザテトラークは、その短い生涯の中で、多くのドラマと伝説を残しました。彼の個性的な性格、類まれなスピード、そしてその血統は、現代の競馬界にまで語り継がれる、まさに伝説のサラブレッドなのです。

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