ナスルーラ

ナスルーラ：伝説の種牡馬とその血統の系譜

ナスルーラ (Nasrullah) は、イギリスで生まれたサラブレッド競走馬にして、世界的な種牡馬として名を馳せた馬である。イギリスとアメリカ合衆国で種牡馬として活躍し、両国でリーディングサイアーの栄冠に輝いた、類まれな存在だった。彼の血統は、現代競馬の礎を築いたと言っても過言ではないだろう。

馬名の由来と意味

彼の馬名は、アラビア語の複合男性名「نصر الله (Naṣr Allāh)」に由来する。これは「神の勝利」または「神による助力」を意味する言葉で、イスラームの聖典クルアーンにも複数回登場する表現である。海外では「victory of God」と説明されることが多い。日本では「偉大なる」という意味だと誤解されることもあるが、アラビア語の本来の意味とは異なる。

経歴と競走馬時代

1940年、イギリスの牧場で誕生したナスルーラは、幼少期から優れた体格をしていたが、同時に気性が荒く、扱いの難しい馬としても知られていた。1942年に競走馬デビューを果たすと、持ち前の能力を発揮し、いくつかのレースで勝利を収める。2歳時にはイギリス最優秀2歳牡馬に選出されるなど、将来を嘱望された。しかし、クラシック競走では期待通りの結果を残せず、気性の激しさゆえにレースを妨害することもあった。1943年のチャンピオンステークス優勝を最後に競走生活を終え、種牡馬としての道を歩み始める。

種牡馬時代の大成功

種牡馬となったナスルーラは、イギリス、アイルランド、そしてアメリカで数々の優秀な産駒を輩出した。初期の産駒には、アイリッシュダービー優勝馬や牝馬二冠馬などが含まれ、その才能はすぐに明らかとなった。特にアメリカでの活躍は目覚ましく、1954年の全米年度代表馬ナシュアや、プリークネスステークスを制したボールドルーラーなど、数々の名馬を送り出した。これらの活躍により、イギリス・アイルランドとアメリカ合衆国、両国でリーディングサイアーのタイトルを獲得。この偉業を達成した最初の種牡馬となった。種付け料は当初198ギニーであったものが、彼の成功に伴い急騰し、1956年には6万5000ドルで落札されるほどになった。1959年、放牧中に急死したが、死後もその血統は競馬界に大きな影響を与え続けた。死後もリーディングサイアーを獲得し続け、その名声を不動のものとした。

ナスルーラ系の影響力

ナスルーラの血統は、世界中に広がり、多くの名馬を生み出した。直子だけでも、ボールドルーラー、ネヴァーセイダイなど、複数のリーディングサイアーを輩出。さらに、グレイソヴリンやプリンスリーギフトといった競走馬としてそれほど活躍できなかった産駒も、種牡馬として成功を収め、多くの優秀な馬を産んだ。ナスルーラ系は、特にボールドルーラー系統を通じて、アメリカ競馬において主流血脈へと成長した。三冠馬セクレタリアト、シアトルスルー、ミスターシービーもナスルーラ系の血を引く。

1990年代以降はノーザンダンサー系、ミスタープロスペクター系の台頭により勢いは衰えたものの、21世紀に入っても、インヴァソール、バゴ、ダラカニ、サキーといった活躍馬を輩出。その影響力は現代競馬においても依然として大きい。しかし、2010年以降は父系直系の活躍馬が減少傾向にある。ヨーロッパでは衰退の一途を辿る一方、フランスではルアーヴル、ケンダルジャンなどの活躍が目覚ましい。アメリカでもボールドルーラー系、特にシアトルスルーとエーピーインディを繋ぐ系統が台頭し、ナスルーラ系の大きな部分を占めている。

主な産駒

ナスルーラは多くの優秀な産駒を残したが、その中でも特に有名な馬としては、ナシュア、ボールドルーラー、ネヴァーセイダイなどが挙げられる。これらの馬は、それぞれ競走馬として、そして種牡馬として大きな成功を収めた。

血統と未来

ナスルーラの父はネアルコ、曾祖母はレディジョセフィン、祖母はムムタズマハルである。これらの馬もまた、優れた競走馬や種牡馬を輩出した名家である。ナスルーラ自身の近親にも、マームード、ロイヤルチャージャー、アバーナントといった名馬がおり、その血統の優秀さがうかがえる。

ナスルーラの血統は、現代競馬においてもなお重要な要素であり続けている。彼の血を受け継ぐ馬たちは、これからも競馬の歴史を彩り続けるだろう。

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