シャルル・モーラス

シャルル＝マリー＝フォティウス・モーラス：フランス右翼思想の巨匠とその複雑な生涯

シャルル＝マリー＝フォティウス・モーラス(1868-1952)は、20世紀フランスを代表する文芸評論家、作家、そして、物議を醸した政治思想家でした。マルティーグ生まれの彼は、14歳で難聴と発声障害を患い、海軍兵学校進学を断念。しかし、17歳でパリに移住すると、文芸誌や政治紙への寄稿を始め、精力的に執筆活動を開始します。

若い頃からオーギュスト・コントの実証主義に傾倒したモーラスは、ドレフュス事件において、反ユダヤ主義的な主張を展開し、世間の注目を集めました。1899年には、アンリ・ヴォジョアとモーリス・ピュジョが結成した王党派右翼団体「アクション・フランセーズ」に参加。機関紙『アクション・フランセーズ』の創刊にも携わり、オルレアン朝の復活や反ユダヤ主義、対独強硬路線などを主張しました。しかし、彼の思想はプルードンやジョルジュ・ソレルといった直接行動主義にも影響を受けており、単純な保守主義に分類することはできません。

第一次世界大戦では、アクション・フランセーズの会員に一時的に共和制打倒運動の停止と対独協力への転換を指示。戦意高揚を訴えつつ、親独派と見なされる人物を攻撃し、幾度も訴訟沙汰に巻き込まれました。クレマンソー大統領当選にも貢献した彼は、終戦後、フランスの損害に見合う賠償とドイツの解体を要求、民族自決や無賠償・無併合には徹底的に反対しました。ソ連を脅威と見なす一方で、イタリアとムッソリーニのファシスト政権を支持するなど、複雑な国際関係への見解を示しました。1934年の2月6日危機では共和制打倒寸前まで迫りましたが失敗し、人民戦線内閣下では地下活動に追い込まれ、襲撃を受けるなど、激動の時代を生き抜きました。しかし、1938年にはアカデミー・フランセーズ会員に選出され、スペイン内戦ではフランコを支持するなど、その活動は多岐に渡りました。

興味深いことに、モーラスはナチス・ドイツに対しても複雑な姿勢を示しました。反ユダヤ主義的な側面には一定の評価を示しつつも、フランスへの敵対心を煽り、軍事力と経済力の回復を訴えるナチスの本質を早くから見抜いていたのです。ヒトラー政権成立後も、ラインラント進駐には理解を示す一方で、「長いナイフの夜」や独ソ不可侵条約を強く非難し、ムッソリーニにヒトラーとの同盟関係からの離脱を訴え、ミュンヘン協定をフランス滅亡への道と批判しました。

第二次世界大戦勃発後、フランスがナチス占領下に置かれると、パリのアクション・フランセーズ本部はゲシュタポの襲撃を受けました。モーラスはリヨンに移り、ヴィシー政権に協力。「フランス国家の回復」を優先する姿勢から、反ドイツ的な主張は後退したものの、ユダヤ人、フリーメイソン、民主主義、共産主義への攻撃は続きました。さらに、レジスタンス運動家をテロリストと激しく非難しました。

1944年のフランス解放後、モーラスは対独協力の罪で起訴され、アカデミー・フランセーズから除名。終身刑の判決を受け、「ドレフュスの復讐だ！」と叫んだと伝えられています。獄中においても執筆活動を続けましたが、健康を害し、1952年に恩赦を受けて病院で亡くなりました。

モーラスの思想は、フランスにおける反近代主義の代表例であり、古典主義的要素を含む反ロマン主義として、T・S・エリオットやT・E・ヒューム、パウンドなどに影響を与えました。アルチュール・ド・ゴビノーやモーリス・バレスから思想的系譜を受け継ぎ、リュシアン・ルバテやジョルジュ・ソレル、モーリス・ブランショらにも強い影響を与えました。彼は、君主制支持を通して民主主義の弊害を防ごうと試みました。

モーラスの生涯と思想は、単純に「右翼」や「反ユダヤ主義者」といったレッテルでは捉えきれない複雑さを持ちます。彼の著作や言動は、20世紀フランスの政治・思想史を理解する上で、重要な一石を投じるものです。彼の残した膨大な著作群は、現代においても、多角的な視点から分析され、議論の的となっています。

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