シャープール2世

シャープール2世：サーサーン朝ペルシア帝国の激動を生き抜いた王

シャープール2世（309年 - 379年）は、サーサーン朝ペルシア帝国の第9代君主として、309年から379年まで在位しました。彼の治世は、サーサーン朝の中央集権化プロセスにおける一つの頂点と見なされています。ペルシア語資料ではシャープール・エ・ドヴオム、アラビア語資料ではサーブール・ズ＝ル＝アクターフと表記されます。

生前戴冠という異例の即位

シャープール2世の即位は、前例のないものでした。父であるホルミズド2世の死後、まだ生まれていない彼が王として担ぎ上げられたのです。これは、当時の大貴族たちが主導したもので、王家の権力争いを避けるための苦肉の策だったと考えられています。母がユダヤ人であったこと、兄たちが王位を争う状況にあったことも、この異例の事態を招いた要因でしょう。胎児に王冠を授けるという行為は、王位の正統性を確保するための象徴的な意味合いを持っていました。

幼少のシャープール2世は、貴族たちの傀儡として扱われましたが、徐々に自らの権力を確立していきます。ローマ帝国のディオクレティアヌスやコンスタンティヌス1世の改革を参考に、強力な中央集権体制を築き上げていきました。

クシャーン族討伐と東方への進出

成年に達したシャープール2世は、まず東方の安定化に乗り出します。シルクロードを抑えるため、クシャーン族を討伐し、交易路を確保しました。これにより、帝国内は繁栄し、中国のトルキスタンにまで影響力を及ぼすことに成功しました。この遠征によって、クシャーン族が独占していた利益をサーサーン朝が享受できるようになり、両国の文化交流も活発化しました。

国内のスサで反乱が発生すると、シャープール2世は徹底的な鎮圧を行います。町を象で踏み潰し、反乱の芽を摘み取った後、ローマ人捕虜を使って町を再建し、「イーラーン・フワル・シャープール（シャープールにより建てられた、イランの栄光）」と名付けました。この他にも、ニーシャープールなど多くの都市が再建・建設され、帝国の繁栄を象徴する存在となりました。

アラブへの遠征も行い、ホルミズド2世の仇を討つとともに、砂漠に逃げ込むアラブ人を徹底的に追撃し、殲滅しました。

ローマ帝国との長き戦い

東方情勢の安定化と内乱の鎮静化後、シャープール2世はローマ帝国との戦いに踏み切ります。337年のコンスタンティヌス1世の死を機に、40年にわたる和平を破棄し、26年にも及ぶ長い戦いが始まりました。この戦いは、コンスタンティウス2世の時代にも引き継がれ、344年のシンガラの包囲戦など、激しい攻防が繰り広げられました。

しかし、ニシビスを3度にわたって攻囲するも落とせず、アナトリア半島南東部のアミダも攻略できませんでした。この頃、フン族の移動が始まり、サーサーン朝の領内にもフン族や、彼らに追われた様々な民族が流れ込んできました。シャープール2世は、彼らと戦い、最終的には和を結んで同盟者とし、ローマ帝国との戦いに利用しました。

359年には、遊牧民の援軍を得てアミダを陥落させ、戦局を大きく有利にしました。この戦いは、ローマの史家アミアヌス・マルケリヌスによって詳細に記録されており、シャープール2世が自ら軍を指揮し、黄金の牡羊の頭部を模した王冠を被っていた様子が描かれています。

アミダ陥落に衝撃を受けたユリアヌス帝は自ら出陣しますが、363年のクテシフォンの戦いで戦死。後継者のヨウィアヌスは、軍を安全に退却させるため、ニシビスなど5つの属州をシャープール2世に割譲し、アルメニアから手を引くという大幅な譲歩を余儀なくされました。これにより、シャープール2世はアルメニアへの影響力を強め、親ローマ派の王を自殺に追い込み、アルメニアをキリスト教国からゾロアスター教国に変えようとしました。

宗教政策の転換

シャープール2世は、当初寛容だった宗教政策を転換し、異教に対して厳しい政策を取りました。特にキリスト教徒に対しては、ローマとの戦費調達のため、倍の税金を課しました。これは、コンスタンティヌス1世のキリスト教国教化への意趣返しでもありました。

ゾロアスター教は、国家によって支えられ、最高の地位は君主が占めていました。シャープール2世時代のゾロアスター教の上位神官階級であるモーバドは、ゾロアスター教の地位を高め、宗教信条の確立に努めました。この時代に、聖典であるアヴェスターが確立され、異端排斥も強化されました。

遺産

シャープール2世の治世は、サーサーン朝の国是であるアケメネス朝の再興に向けて、領土を拡大するという点では大きな成果を挙げました。しかし、半世紀を超える長期にわたる在位は、貴族たちの権勢を弱め、ローマとの戦いで受けた被害も大きかったため、その後の貴族たちの王家に対する干渉を招くことになりました。

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