シュノイキスモス

シュノイキスモス：古代ギリシアにおけるポリス形成の鍵

シュノイキスモス（συνοικισμός）は、古代ギリシア語で「共に住む」を意味し、歴史学においては、村落が合併しポリス（都市国家）が形成される過程を指す言葉です。日本語では「集住」と訳されることもあります。この概念は、古代ギリシアの国家形態を理解する上で非常に重要な要素となります。

語源と意味

シュノイキスモスの語源は、古代ギリシア語の「シュン」（ともに）と「オイコス」（家）という二つの単語が組み合わさったものです。この語源からもわかるように、シュノイキスモスは、複数の村落が一つにまとまり、共同体を形成する動きを表しています。このプロセスは、単なる物理的な集住だけでなく、政治的、社会的な統合を伴うものでした。

歴史的背景

シュノイキスモスは、トゥキュディデスやプルタルコスの著作にも記述が見られます。特に有名な例は、アテナイの初期の王テセウスが、アッティカ地方の村々を統合し、アテナイというポリスを形成したという伝説です。しかし、このテセウスの事績は伝説的なもので、実際のシュノイキスモスは、紀元前8世紀頃に徐々に進行したと考えられています。トゥキュディデスは、アテナイの統合を評議所や役所の合併として捉えた一方、プルタルコスは住民の物理的な移住を強調しており、両者の記述にはニュアンスの違いがあります。

シュノイキスモスの実例

アテナイやスパルタでは、紀元前8世紀頃（暗黒時代の終わりからアルカイック期の始まり）にシュノイキスモスが発生しました。一方、エリス、ロクリス、ロドス、マンティネイアでは、紀元前5世紀から前4世紀（アルカイック期から古典期）にかけてシュノイキスモスが起こりました。これらの例から、シュノイキスモスが、古代ギリシア全体で一様ではなく、地域や時代によって異なる形で発生したことがわかります。

対義語：ディオイキスモス

シュノイキスモスの対義語として「ディオイキスモス」（分住）という言葉があります。ディオイキスモスは、ポリスが解体され、人々がそれぞれの村落に戻る現象を指します。マンティネイアが戦争に敗れ解体された際にディオイキスモスが起こった事例が知られています。

近年の研究動向

20世紀末から21世紀にかけて、従来の「アテナイ中心史観」的なポリス像に対する再検討が進められています。その結果、全てのポリスがシュノイキスモスを経て形成されたわけではないこと、また、集住をせずに村落結合体（エトノス）として繁栄した地域も存在したことが指摘されています。これらの研究は、古代ギリシアの多様な社会構造を理解する上で重要です。

まとめ

シュノイキスモスは、古代ギリシアにおけるポリス形成の重要な要素であり、単なる村落の合併以上の意味を持っていました。政治的、社会的な統合を伴い、ポリスの基礎を築く役割を果たしました。近年の研究では、シュノイキスモスが多様な形態で発生したことが明らかになっており、古代ギリシアの社会構造に対する理解を深める上で不可欠な概念となっています。

参考資料

周藤芳幸; 村田奈々子『ギリシアを知る事典』東京堂出版、2000年。ISBN 9784490105230。
新村祐一郎「シュノイキスモスについて―スパルタとアテナイの場合―」『古代史講座 第6』学生社、1962年。doi:10.11501/2973557。
新村祐一郎「シュノイキスモスの意味について」『歴史教育』第13-4号、歴史教育研究会、1965年。NAID 40003821595。
橋場弦「ギリシアとヘレニズム――ポリスと周辺世界のダイナミズム」『岩波講座世界歴史 第2巻 古代西アジアとギリシア ～前1世紀』岩波書店、2023年。ISBN 9784000114127。

関連項目

* フュレー

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