ショウブ

ショウブ（菖蒲）

ショウブ（学名: Acorus calamus）は、池や川などの水辺に自生する多年生の草本です。単子葉植物に分類され、APG体系ではショウブ目ショウブ科ショウブ属に属します。ユーラシア大陸から北米大陸の温帯・暖帯に広く分布し、日本を含む東アジア地域に分布するものは変種A. calamus var. angustatusとされています。

名称

和名「ショウブ」は、漢名の「菖蒲」に由来します。古くはアヤメグサ（アヤメ草）と呼ばれ、『万葉集』にもその名が登場します。日本では「菖蒲」の漢字が用いられますが、中国では本来、白菖を指し、「菖蒲」は近縁種のセキショウ（石菖）を指します。地方によっては、オニゼキショウ、フキグサ、カラムスコン、アヤメグサ、ソウブ、ノキアヤメ、ブルーフラッグ、カラムス、スイートフラッグなど、多様な別名で呼ばれています。

分布と生育地

ショウブは、ユーラシア大陸および北米大陸に広く分布しています。具体的には、日本、朝鮮半島、中国、モンゴル、ロシアの極東・シベリア地域、マレーシア、インドシナ、インド、スリランカ、ヒマラヤ、そして北アメリカにまで分布し、北半球の温帯から暖帯にかけて広く帰化しています。日本では、北海道から九州にかけての水辺に自生し、池や溝のそばで群生しているのが見られます。

特徴

ショウブは水辺に群生し、草丈は50cmから100cm程度に成長します。植物全体に芳香があるのが特徴です。

根茎はよく分枝し、湿地の泥の中を長く横に這い、太さは10mmから15mm程度。節からは多数のひげ根が出ます。地中の根茎の先端からは、地上に向けて多数の葉を伸ばします。葉は明るい緑色で、幅は10mmから20mm程度。葉の形はハナショウブに似ていますが、左右から扁平で中央脈が目立ち、葉先が鋭く尖った剣のような形をしています。基部は左右に抱き合うように2列に並びます。

花期は初夏の5月から7月頃。葉のように見える花茎の先に、目立たない黄緑色の棒状の肉穂花序が斜め上に向かって伸び、小さな花が下から順に咲きます。花茎は葉と同じような形をしており、肉穂花序の基部には長さ約5cmの苞が1枚つきます。この苞は葉よりも短く、花は葉の途中から穂が出たような姿に見えます。苞の長さは20cmから40cm、幅は5mmから8mm。花は両性花で、花被片は6個、倒狭卵形で淡い黄緑色をしており、長さは約2mm。花は小さく、見た目は花らしくありません。雄しべは6個で、花被片とほぼ同じ長さの1mmから2mm。開花時には黄色い葯だけが突き出し、花糸は白色です。雌しべは1個で、やや六角形で花被片よりも長く、長さは約2mmです。

中国では、長さ1.2mmから2.5mm程度の長楕円形の液果が確認されていますが、日本産のショウブは3倍体であるため、果実をつけることはありません。染色体数は変異があり、2倍体、3倍体、4倍体、異数体が存在します。

利用

ショウブは、茎葉全体に芳香があるため、端午の節句にショウブ湯として利用されてきました。中国では、ショウブの形が刀に似ていることや、邪気を祓うような爽やかな香りを持つことから、男子にとって縁起の良い植物とされ、家屋の軒に吊るしたり、枕の下に置いて寝たりする習慣がありました。日本でも、奈良時代の聖武天皇の頃から端午の節句に使われ始め、武士が台頭してからは「尚武」に通じることから、魔除けとして軒先に吊るしたり、風呂に入れる習慣が広まりました。古代エジプトでは、治療薬や媚薬として利用されていました。

今日では、ショウブの精油が一部のお茶や、アルトファーター、ベネディクティン、カンパリ、ジン、ベルモット、シャルトリューズなどのリキュールに配合されています。

薬用

根茎は生薬として利用され、白菖、菖蒲根（しょうぶこん）、カラムスコンと呼ばれます。鎮静作用や健胃作用があり、漢方薬にも用いられます。ただし、妊婦への使用は禁忌とされています。2倍体の品種の根茎にはアサロンが含まれていないため安全性が高いと評価されていますが、3倍体および4倍体の品種（アジアおよびヨーロッパの種）の根茎にはアサロンが含まれているため、薬物としての安全性は劣るとされています。民間では、古くから菖蒲湯として用いられ、血液循環促進、冷え性、肩こり、疲労痛に効果があるとされています。また、乾燥させた根茎を煎じて、食欲不振や消化不良に用いることもありましたが、独特の不快な味があり、吐き気を催すことがあるため内服には適しません。

近縁種

近縁種のセキショウ（石菖）は、ショウブよりも小柄で、葉の長さは30cmから50cm程度。葉の中脈は目立たず、渓流沿いに生息します。根茎は薬草として珍重され、鎮痛、鎮静、健胃薬として神経痛や痛風の治療に用いられました。蒸し風呂（湿式サウナ）では、床に敷いてテルペン（鎮痛効果がある）を成分とする芳香を放出し、皮膚や呼吸器から体内に吸収させるように利用されます。

もう一度検索