シースラグ (ミサイル)

シー・スラグ

シー・スラグは、イギリス海軍が実用化した最初の艦隊防空ミサイルであり、第一世代に位置づけられます。英語で「ウミウシ」を意味するこのミサイルは、システム区分としてはGWS.1および改良型のGWS.2が存在します。

開発の背景

本ミサイルの開発計画は、第二次世界大戦中の1943年頃に開始されました。開発の直接的な動機となったのは、当時ドイツ国防軍が実戦に投入していたフリッツXやHs 293のような誘導爆弾への対策でした。これらの誘導爆弾は、当時の艦艇が持つ高角機銃の有効射程外から投下されたため、母機をより長距離で迎撃可能な対空兵器の必要性が認識されたのです。

開発の歩み

誘導爆弾に対抗するため、1943年よりLOP/GAP（液体酸素燃料/誘導対空投射体）計画がスタートしました。この名称は後に単にGAPと略されるようになり、1947年には正式に「シースラグ」と改称されます。開発が進む中で要求仕様がたびたび変更されたため、1948年には一度「シースラグII」という名称が検討されましたが、その後のさらなる変更を経て、最終的には再び「シースラグ」の名に戻りました。イギリス海軍は1957年に予定されていた艦隊の大規模近代化に合わせて、1956年までの実用化を望んでいましたが、開発は計画通りに進みませんでした。また、当時アメリカ合衆国で開発されていた優れた艦対空ミサイルであるテリアの売り込みもありましたが、国内の軍需産業育成という方針と、海外からの兵器調達が国際情勢に左右される可能性を懸念した結果、テリアの導入は見送られ、シースラグの開発が継続されることになります。試験艦「ガードル・ネス」が開発試験のために提供され、1956年10月には誘導試射が開始されました。そして、1961年に行われた一連の試射を経て、シースラグは艦隊に配備可能な状態であることが確認されました。

改良型Mk.II

1957年には、射程の延伸を目指した改良型であるシースラグMk.IIの開発が始まりました。このMk.IIの開発と試験は1965年までに完了しました。Mk.IIシステムの導入に合わせて、艦上の火器管制装置などもデジタル化が進められました。この改良により、システム区分はGWS.2に変更され、主にカウンティ級駆逐艦の後期建造グループ（バッチ2）に搭載されることになりました。

設計と技術

シースラグの推進システムについては、初期の計画では液体燃料ロケットが予定されていましたが、開発途中の1956年までに固体燃料ロケットへの変更が実現しました。これは、弾薬庫の空間利用効率を高めることを重視した結果です。ミサイル弾体の周囲に4本の固体燃料ブースターを配置するという特徴的な外観は、この設計思想から生まれました。発射機に関しては、当初は1つの目標に対して3発を斉射するという戦術構想に基づき、3連装の発射機が検討されましたが、設計上の困難さから最終的には連装（2連装）式が採用されました。初期のアメリカ製ミサイルであるテリアやタロスと同様に、ミサイルは艦内の弾倉に水平に格納されており、そこから艦尾の発射機へ続くトンネル内で、発射前の動作確認や操舵翼の装着といった作業を経て装填される方式が採用されていました。

誘導と管制

ミサイルの誘導方式としては、ビームライディング方式が採用されました。これは、艦上のレーダーが目標を追尾しつつ発射されたミサイルに向けて誘導用の電波ビームを発射し、ミサイルがそのビームの中心線上を飛行するように誘導される方式です。開発側の計画では、シースラグ1発あたりの命中公算は0.55と見積もられていましたが、試験艦「ガードル・ネス」での実射試験においては、80パーセントという高い撃墜率を記録したとされています。火器管制には、当初901型レーダーが使用されましたが、GWS.2システムでは901M型に更新されました。901M型では、ミサイル誘導用ビームに加え、目標追尾専用の3本目のビームが追加されました。これにより、ミサイルを目標の上方へ向かわせた後、急降下させて迎撃するという戦術的な運用が可能となりました。また、低空を飛行する目標への対処能力を向上させるため、テレビ映像装置も追加されています。GWS.2システム全体としても、艦上機器のデジタル化および自動化が推進されています。

配備と退役

シースラグの後継として開発された第二世代艦隊防空ミサイル、シー・ダート GWS.30は1973年に就役を開始しました。しかし、アメリカのスタンダードミサイルのような前方互換性がなかったため、シースラグはシー・ダートの就役開始とともに搭載艦が限定され、主にカウンティ級駆逐艦での運用に留まりました。シースラグは、イギリス海軍のカウンティ級駆逐艦バッチ1（GWS.1）およびバッチ2（GWS.2）、そしてチリ海軍に売却されたカウンティ級駆逐艦バッチ2に搭載されました。

実戦での記録

シースラグが実戦で使用された事例としては、1982年のフォークランド紛争が挙げられます。紛争に参加したカウンティ級駆逐艦「アントリム」は、アルゼンチン空軍のダガー攻撃機に対してシースラグを発射しましたが、命中には至りませんでした。また、「アントリム」はポート・スタンリー飛行場への攻撃作戦において、対空ミサイルであるシースラグを弾道計算によって地上目標へ向けて発射するという、珍しい戦果を記録しています。

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