ジャン・フランソワ・ジェニー・クラーク

ジャン・フランソワ・ジェニー・クラーク

ジャン・フランソワ・ジェニー・クラーク（1944年7月12日 - 1998年10月6日）は、フランスが生んだ偉大なダブルベース奏者です。彼は短い生涯ながら、ヨーロピアン・ジャズ界において最も影響力のあるベーシストの一人として広く認識されています。ジャズの枠に留まらず、現代音楽の分野でも重要な活動を展開し、その類稀なる才能と適応力で多くのミュージシャンから尊敬を集めました。

ジャズにおける活躍

ジェニー・クラークのジャズキャリアは、1960年代半ばから本格的に始まります。1965年には、ドラマーのアルド・ロマーノと共に、トランペット奏者ドン・チェリーが率いるヨーロピアン・クインテットのリズムセクションとして参加し、その堅固な基盤を支えました。この初期の経験は、その後の多様な活動への足がかりとなります。サックス奏者のスティーヴ・レイシーとのレコーディングや、ピアニストのキース・ジャレットとのコンサート共演（1970年頃）など、彼は当時最前線で活躍するジャズミュージシャンたちと次々と共演を果たしました。また、1975年頃には、ヤスパー・ファントフが率いるグループ「ポーク・パイ」にチャーリー・マリアーノらと共に加わり、そのサウンドに貢献しました。

共同リーダーとしても精力的に活動を展開しました。特に、1984年から1987年にかけては、ドイツのトロンボーン奏者アルベルト・マンゲルスドルフと共に、ドイツとフランスのミュージシャンからなるジャズアンサンブルを共同で牽引し、国際的なコラボレーションの成功例を示しました。さらに、1985年以降は、ドイツのピアニストであるヨアヒム・キューン、そしてスイスのドラマーであるダニエル・ユメールと共にトリオを結成しました。このトリオは、その革新的かつ洗練された演奏で高い評価を獲得し、ジェニー・クラークの活動の中でも特に重要な位置を占めることとなりました。

現代音楽への貢献

ジェニー・クラークの活動範囲はジャズに限定されませんでした。彼は現代音楽の分野でも目覚ましい足跡を残しています。指揮者ディエゴ・マッソンが主宰したアンサンブル「ムジーク・ヴィヴァンテ」の主要メンバーとして、ジョン・ケージ、ルチアーノ・ベリオ、マウリシオ・カーゲル、カールハインツ・シュトックハウゼン、ピエール・ブーレーズ、ヴィンコ・グロボカールといった、20世紀後半の音楽史を彩る革新的な作曲家たちの作品の演奏に携わりました。これらの活動を通じて、彼はダブルベースという楽器の表現の可能性を広げ、現代音楽アンサンブルにおけるベーシストの役割を再定義しました。

音楽的遺産

ジャン・フランソワ・ジェニー・クラークの演奏は、卓越したテクニック、深い音楽性、そして多様なジャンルやアンサンブルに柔軟に適応できる能力によって特徴づけられます。彼は単なるリズム楽器奏者としてではなく、常に音楽全体の対話に参加し、その存在感を示しました。ジャズにおける即興演奏の創造性、現代音楽における複雑な楽譜への正確な対応力、そしてどちらの分野でも失われることのない生命力あふれるサウンドは、多くの後進ミュージシャンに影響を与えました。彼の残した豊富なディスコグラフィは、その多岐にわたる活動と、ヨーロピアン・ジャズおよび現代音楽への計り知れない貢献を物語っています。

主なディスコグラフィ

以下に、ジェニー・クラークがリーダーまたは共同リーダーとして参加した主要なアルバムの一部を挙げます。

Divieto Di Santificazione (1977年、Horo) ※with アルド・ロマーノ
New Moon (1978年、Musica) ※with スティーヴ・グロスマン
En Direct D'Antibes (1980年、Carlyne) ※Quintet René Urtreger名義
Albert Live In Montreux! (1981年、MPS) ※with アルベルト・マンゲルスドルフ、ロナルド・シャノン・ジャクソン
Welcome (1987年、Soul Note) ※with クラウディオ・ファゾーリ、ケニー・ホイーラー、ダニエル・ユメール
Unison (1987年、CMP)
『9/11p.m.タウン・ホール』 - 9 - 11 pm Town Hall (1988年、Label Bleu) ※with ダニエル・ユメール、ミシェル・ポルタル、マーシャル・ソラール、ヨアヒム・キューン、マルク・デュクレ
Land (1989年、Innowo) ※with クラウディオ・ファゾーリ、ケニー・ホイーラー
『senza tempo』 - Senza Tempo (1990年、Egg Farm) ※with 富樫雅彦、三宅榛名、高橋悠治
8 Years Old (1991年、Big Blue) ※with Georges Paczynski、Jean-Christophe Levinson
Ternaire (1992年、Deux Z) ※with デヴィッド・フリードマン、ダニエル・ユメール
『パリ・セッションVol.1〜オータム・イン・パリ』 - Autumn in Paris (1992年、Ninety-One) ※with 富樫雅彦、佐藤允彦
A Winter's Tale (1993年、Nato) ※with トニー・ハイマス、ジャック・トロ
『オープン・アーキテクチャー』 - Open Architecture (1993年、Ninety-One) ※with ダニエル・ユメール、ジェリー・バーガンジィ
『サン・ティトレ〜松本セッション』 - Sans Titre (1993年、日本クラウン) ※ムダーイ・トリオ名義。with 富樫雅彦、佐藤允彦
Levin'Song (1994年、JPB Production) ※with Georges Paczynski、Jean-Christophe Levinson
Un Ciel De Traîne (1995年、CC Production)
Takiya ! Tokaya ! (1997年、Label Hopi)
Il Piacere (2001年、Owl) ※with アルド・ロマーノ、ミシェル・ポルタル、クロード・バルテレミー
Solo (2003年、La Buissonne)
『クロッシング・オービッツ』 - Crossing Orbits (2012年、Studio Songs) ※with 富樫雅彦、佐藤允彦
The Unique Concert (2020年、Disques JMS) ※with ディディエ・ロックウッド、ゴードン・ベック、アラン・ホールズワース、アルド・ロマーノ

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