ジャーン朝とは？意味をやさしく解説 - サードペディア百科事典

ジャーン朝

ジャーン朝は、17世紀から18世紀にかけて中央アジアに存在したテュルク系のイスラム王朝です。創始者のジャーニー・ムハンマドにちなんで名付けられましたが、彼の一族の出身地であるアストラハンに由来し、アストラハン朝とも呼ばれます。また、ブハラを首都としたため、シャイバーニー朝、マンギト朝とともにブハラ・ハン国とも呼ばれています。

歴史

ジャーン朝の一族は、ジョチの13男トカ・テムルの末裔であり、元々はアストラハン・ハン国に居住していました。しかし、ヤール・ムハンマドの時代にロシア軍の侵攻を受け、シャイバーニー朝へ亡命しました。シャイバーニー朝のイスカンダル・ハンは彼らを厚遇し、ヤール・ムハンマドの子であるジャーニー・ムハンマドに自身の娘ザフラー・ハヌムを娶らせました。

1598年、シャイバーニー朝が混乱期に入ると、北方のカザフ・ハン国が侵攻を開始しました。当時、シャイバーニー朝軍を指揮していたのはピール・ムハンマド2世でしたが、ジャーニー・ムハンマドの援軍を得てカザフ軍に勝利しました。

1599年、ピール・ムハンマド2世が亡くなると、シャイバーニー朝の男系が途絶えました。そこで貴族たちは、対カザフ戦での功労者であるジャーニー・ムハンマドをハンに推挙しました。しかし、ジャーニー・ムハンマドは「シャイバーニー家の血を引く者がハン位に就くべき」と固辞し、代わりにアブドゥッラーフ2世の甥にあたる自身の息子ディーン・ムハンマドを推薦しました。しかし、ディーン・ムハンマドはまもなくホラーサーンでのサファヴィー朝との戦いで戦死し、その弟であるバーキー・ムハンマドがハン位に就きました。これにより、ジャーン朝が成立しました。

1611年に即位したイマーム・クリの時代（在位：1611年 - 1642年）に、ジャーン朝は最盛期を迎えました。イマーム・クリは国内の治安維持と経済発展に尽力し、ブハラに各地から著名な学者を招いて学芸を奨励しました。この時代は、中央アジアにおける暗黒時代の中での光明と評されています。しかし、イマーム・クリの死後、後継者争いが頻発し、王朝は次第に衰退していきました。

1740年、アフシャール朝のナーディル・シャーが中央アジアに侵攻すると、当時のハンであったアブール＝ファイズはナーディル・シャーに贈り物と婚姻関係を結び、アフシャール朝の従属下に入りました。この頃から、宰相の地位にあったマンギト部族出身のムハンマド・ラヒームが権力を掌握し始めました。彼はアブール＝ファイズの後を継いだアブドゥル＝ムウミンを暗殺して実権を握り、1753年にはアミールを称し、1756年には最後のハンであるアブル＝ガーズィーを廃位して自らハン位に就き、マンギト朝を創始してジャーン朝を滅ぼしました。

歴代ハン

ヤール・ムハンマド
ジャーニー・ムハンマド
ディーン・ムハンマド
バーキー・ムハンマド（1599年？ - 1605年）
ワリー・ムハンマド（1605年 - 1611年）
イマーム・クリ（1611年 - 1642年）
ナズル・ムハンマド（1642年 - 1645年）
アブドゥル＝アズィーズ（1645年 - 1680年）
スブハーン・クリ（1680年 - 1702年）
ウバイドゥッラー1世（1702年 - 1711年）
アブール＝ファイズ（1711年 - 1747年）
アブドゥル＝ムウミン（1747年 - 1748年）
ウバイドゥッラー2世（1748年 - 1753年）
アブル＝ガーズィー（1753年 - 1756年、1758年 - 1788年/1789年？)

脚注

参考資料

小松久男編『世界各国史4 中央ユーラシア史』（山川出版社、2005年、ISBN 463441340X）
岩村忍『文明の十字路＝中央アジアの歴史』（講談社学術文庫、2007年、ISBN 9784061598034）

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