ジョセフ・ホルブルック
ジョーセフ・チャールズ・ホルブルック（後にJosefと綴りを変更）は、1878年から1958年にかけて活動したイングランドの多才な音楽家です。作曲家、ピアニスト、そして指揮者として知られ、特にその大胆な作風から「コックニーのワーグナー」という異名で呼ばれることもありました。
幼少期から音楽的才能を発揮し、12歳でピアニストとして公の舞台に立ちました。その後、ロンドンへ移り、英国王立音楽院でフレデリック・コーダーなどの指導を受けます。学業修了後は、主に保養地でオーケストラの指揮者を務めましたが、この頃から作曲家としてのキャリアを確立することを強く意識するようになりました。
1900年、十分な経済的基盤がない中で、彼は作曲家として独立する道を選びます。この年に発表された交響詩《大鴉》作品25は、オーガスト・マンズ指揮のもとクリスタル・パレスで行われた初演が成功を収め、作曲家としての評価を確立しました。立て続けに発表された《ヴァイキング》や《バイロン》、《女王マブ》といった管弦楽曲によって、ホルブルックは当時のイギリスにおいて、その能力と革新性において最も優れた作曲家の一人と見なされるようになります。「コックニーのワーグナー」という呼称もこの時期に定着しました。
しかし、第一次世界大戦後のヨーロッパとイギリスの音楽界では、趣向の変化が顕著となりました。大陸では新古典主義が台頭し、イギリス国内ではレイフ・ヴォーン・ウィリアムズに代表されるような、より牧歌的で内省的なスタイルが支持されるようになります。こうした新しい潮流に対し、ホルブルックは19世紀ロマン派音楽の伝統、特にワーグナーの影響を強く受けたスタイルを頑なに守り続けました。ワーグナー風の大規模な連作オペラによってさらなる高みを目指そうとした彼の姿勢は、当時の音楽シーンから次第に乖離していき、結果としてイギリス楽壇の主流から外れていくことになります。
ちなみに、彼の息子であるグウィディオン・ブルックは、後に著名なファゴット奏者として活躍しています。
ホルブルックは多作な作曲家であり、幅広いジャンルの作品を残しました。8曲の交響曲、多数の交響詩、2曲のピアノ協奏曲といった大規模な管弦楽作品に加え、弦楽四重奏曲、クラリネット五重奏曲、ピアノ五重奏曲、ピアノ四重奏曲など、豊富な室内楽曲も手掛けています。彼の作品の多くは、作家エドガー・アラン・ポーの文学から強い霊感を受けており、特に交響詩《大鴉》作品25、エドワード・エルガーに献呈された管弦楽のための前奏曲《鐘》作品50、そしてバレエ音楽《赤死病の仮面》は代表作として知られています。また、アイルランドやケルトの題材にも関心を示し、《ピアノ協奏曲 第1番「グウィン・アプ・ニーズの唄」》作品52のような作品や、ウェールズの叙事詩に基づく三部作のオペラ大作《マビノギョン》を完成させました。
ホルブルックは、フランク・ブリッジやハヴァーガル・ブライアンといった同時代の他のイギリス人作曲家と同様に、その功績や独創性が音楽史において十分に評価されていない人物の一人です。彼の作品はしばしば大規模で、上演には経済的な負担、聴衆にはかなりの集中力を要求すると評されることもありました。しかし、20世紀初頭にはアルトゥール・ニキシュ、ハンス・リヒター、ヘンリー・ウッド、トマス・ビーチャムといった当時を代表する指揮者たちによって彼の管弦楽作品が演奏されるなど、一定の評価を得ていました。作曲家グランヴィル・バントックや、有力な音楽評論家であるアーネスト・ニューマン（新ドイツ楽派支持者）、イーグルフィールド＝ハル（スクリャービン支持者）などが彼の擁護者として名を連ねています。ホルブルックが後世の音楽史から忘れ去られてしまったのは、第一次世界大戦後も頑なにドイツ盛期ロマン派の伝統に留まり続けたため、同時代のリヒャルト・シュトラウスと同じように、時代遅れで保守的と見なされたことが主な理由と考えられています。これは、主流から外れたフランク・ブリッジとは対照的な理由によるものです。
彼の音楽スタイルは、ベルリオーズやリヒャルト・シュトラウスの影響が色濃く見られる後期ロマン派の範疇にあります。ワーグナーに傾倒していた師フレデリック・コーダーからの指導も、この傾向を一層強めたと考えられます。多くの作品に共通する特徴として、自由でありながらもしっかりとした構成、華麗で多彩な響きへの嗜好、精緻に計算されたオーケストレーション、豊かな詩情と想像力、そして幻想的な世界観が挙げられます。また、頻繁な半音階の使用も特徴の一つです。一方で、一部の作品には、暗い情念の描写や短調への傾斜、民族音楽からの影響と思われる通俗性、劇的で情熱的な高まり、そして重厚で密度の濃い楽想の展開が見られ、こうした点はマーラーやラフマニノフの作風と類似することもあります。演奏者には超絶技巧が要求される場面もしばしば登場します。
現在、彼の作品の一部、特に器楽曲は録音を通じて再評価されつつありますが、大規模なオペラ作品に関しては、いまだ十分な注目が集まっていない状況です。
現代の音楽家の中にもホルブルックに敬意を払う人物がいます。イギリスの作曲家でベーシストのギャヴィン・ブライアーズは、彼への称賛から、デレク・ベイリーやトニー・オクスレイとの即興演奏グループに「ジョセフ・ホルブルック」という名前を付けました。ただし、このグループがホルブルックの既存の楽曲を演奏することはなかったようです。
略歴
幼少期から音楽的才能を発揮し、12歳でピアニストとして公の舞台に立ちました。その後、ロンドンへ移り、英国王立音楽院でフレデリック・コーダーなどの指導を受けます。学業修了後は、主に保養地でオーケストラの指揮者を務めましたが、この頃から作曲家としてのキャリアを確立することを強く意識するようになりました。
1900年、十分な経済的基盤がない中で、彼は作曲家として独立する道を選びます。この年に発表された交響詩《大鴉》作品25は、オーガスト・マンズ指揮のもとクリスタル・パレスで行われた初演が成功を収め、作曲家としての評価を確立しました。立て続けに発表された《ヴァイキング》や《バイロン》、《女王マブ》といった管弦楽曲によって、ホルブルックは当時のイギリスにおいて、その能力と革新性において最も優れた作曲家の一人と見なされるようになります。「コックニーのワーグナー」という呼称もこの時期に定着しました。
しかし、第一次世界大戦後のヨーロッパとイギリスの音楽界では、趣向の変化が顕著となりました。大陸では新古典主義が台頭し、イギリス国内ではレイフ・ヴォーン・ウィリアムズに代表されるような、より牧歌的で内省的なスタイルが支持されるようになります。こうした新しい潮流に対し、ホルブルックは19世紀ロマン派音楽の伝統、特にワーグナーの影響を強く受けたスタイルを頑なに守り続けました。ワーグナー風の大規模な連作オペラによってさらなる高みを目指そうとした彼の姿勢は、当時の音楽シーンから次第に乖離していき、結果としてイギリス楽壇の主流から外れていくことになります。
ちなみに、彼の息子であるグウィディオン・ブルックは、後に著名なファゴット奏者として活躍しています。
作品
ホルブルックは多作な作曲家であり、幅広いジャンルの作品を残しました。8曲の交響曲、多数の交響詩、2曲のピアノ協奏曲といった大規模な管弦楽作品に加え、弦楽四重奏曲、クラリネット五重奏曲、ピアノ五重奏曲、ピアノ四重奏曲など、豊富な室内楽曲も手掛けています。彼の作品の多くは、作家エドガー・アラン・ポーの文学から強い霊感を受けており、特に交響詩《大鴉》作品25、エドワード・エルガーに献呈された管弦楽のための前奏曲《鐘》作品50、そしてバレエ音楽《赤死病の仮面》は代表作として知られています。また、アイルランドやケルトの題材にも関心を示し、《ピアノ協奏曲 第1番「グウィン・アプ・ニーズの唄」》作品52のような作品や、ウェールズの叙事詩に基づく三部作のオペラ大作《マビノギョン》を完成させました。
作風と評価
ホルブルックは、フランク・ブリッジやハヴァーガル・ブライアンといった同時代の他のイギリス人作曲家と同様に、その功績や独創性が音楽史において十分に評価されていない人物の一人です。彼の作品はしばしば大規模で、上演には経済的な負担、聴衆にはかなりの集中力を要求すると評されることもありました。しかし、20世紀初頭にはアルトゥール・ニキシュ、ハンス・リヒター、ヘンリー・ウッド、トマス・ビーチャムといった当時を代表する指揮者たちによって彼の管弦楽作品が演奏されるなど、一定の評価を得ていました。作曲家グランヴィル・バントックや、有力な音楽評論家であるアーネスト・ニューマン（新ドイツ楽派支持者）、イーグルフィールド＝ハル（スクリャービン支持者）などが彼の擁護者として名を連ねています。ホルブルックが後世の音楽史から忘れ去られてしまったのは、第一次世界大戦後も頑なにドイツ盛期ロマン派の伝統に留まり続けたため、同時代のリヒャルト・シュトラウスと同じように、時代遅れで保守的と見なされたことが主な理由と考えられています。これは、主流から外れたフランク・ブリッジとは対照的な理由によるものです。
彼の音楽スタイルは、ベルリオーズやリヒャルト・シュトラウスの影響が色濃く見られる後期ロマン派の範疇にあります。ワーグナーに傾倒していた師フレデリック・コーダーからの指導も、この傾向を一層強めたと考えられます。多くの作品に共通する特徴として、自由でありながらもしっかりとした構成、華麗で多彩な響きへの嗜好、精緻に計算されたオーケストレーション、豊かな詩情と想像力、そして幻想的な世界観が挙げられます。また、頻繁な半音階の使用も特徴の一つです。一方で、一部の作品には、暗い情念の描写や短調への傾斜、民族音楽からの影響と思われる通俗性、劇的で情熱的な高まり、そして重厚で密度の濃い楽想の展開が見られ、こうした点はマーラーやラフマニノフの作風と類似することもあります。演奏者には超絶技巧が要求される場面もしばしば登場します。
現在、彼の作品の一部、特に器楽曲は録音を通じて再評価されつつありますが、大規模なオペラ作品に関しては、いまだ十分な注目が集まっていない状況です。
その他
現代の音楽家の中にもホルブルックに敬意を払う人物がいます。イギリスの作曲家でベーシストのギャヴィン・ブライアーズは、彼への称賛から、デレク・ベイリーやトニー・オクスレイとの即興演奏グループに「ジョセフ・ホルブルック」という名前を付けました。ただし、このグループがホルブルックの既存の楽曲を演奏することはなかったようです。
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