スィッフィーンの戦い

スィッフィーンの戦い

スィッフィーンの戦い（وقعة صفين、英：Battle of Siffin）は、657年の6月から7月にかけて、ユーフラテス川上流域のスィッフィーンで行われた重要な戦闘です。この戦闘は、第4代正統カリフであるアリー・イブン・アビー・ターリブと、シリア総督ムアーウィヤとの間で繰り広げられました。この戦いは、イスラーム史上の第一次内乱（656年 - 661年）において特に重要な局面となりました。

背景

戦闘の背景には、656年に第3代正統カリフ、ウスマーンが暗殺された事件があります。ウスマーンを殺した者たちは、預言者ムハンマドの娘婿であり人望のあったアリーを新たなカリフとして擁立しました。しかし、ウスマーンの従兄弟であるムアーウィヤはアリーのカリフ就任に異議を唱え、ウスマーンを殺害した者たちの処罰を求めました。アリーはウスマーンの殺害には関与していないとされていましたが、彼らに対して処罰を行う力を持たず、妥協せざるを得ませんでした。

翌9月には、ムアーウィヤがアリーに対して事実上の宣戦布告を行いました。アリーはシリア遠征の準備を始めますが、同時期にサハーバのタルハとズバイル、そしてアーイシャが反アリーの立場をとってメッカで挙兵し、第一次内乱が始まることになります。アリーはバスラ郊外でのラクダの戦いで彼らを破り、クーファを新たな拠点としてしまいます。

ラクダの戦いの後、アリーはシリアに講和を呼びかけましたが、ムアーウィヤはアムル・イブン・アル＝アースを用いて反アリーの気運を煽り、講和を拒否しました。この時点で、両者の武力衝突は避けられない状況となりました。

戦いの経過

657年の5月、アリーはイラクとヒジャーズから集めた9万人の軍を率いてクーファを出発しました。砂漠地帯を越え、ユーフラテス川を渡った後、まずシリア国境での初の交戦で勝利を収めます。ムアーウィヤは12万人のシリア軍を指揮し、スィッフィーンに陣を布いて水の供給を確保しました。両軍の戦いは、最初は水場の確保を巡って始まりました。

アリーは、ムアーウィヤに対して水場の公平な使用を求めますが、ムアーウィヤは明確な答を出さず、時間を稼ぎました。アリーは自軍の副将に攻撃を命じて水場を確保します。その後、アリーが水場の使用を認めることに決めたことで、両軍の間に緊張がほぐれるかに見えました。

戦闘は7月26日に始まり、イラク軍のアリーが中央で指揮を取り、ムアーウィヤは実戦指揮をアムルに任せる形で戦闘が進みました。初日から両軍は激しい接触を続け、特にシリア側は不利な状況に立たされました。

和平協議とその影響

戦闘が続く中、ムアーウィヤは和平の提案を行い、イラク軍の一部は動揺しますが、アリーはこの呼びかけを敵の策略だと見なしました。最終的に、兵士たちの圧力によりアリーは和平に応じることとなり、両軍は停戦に合意します。この合意の結果、アリーとムアーウィヤの間で正式な協議が行われることが決定されました。

スィッフィーンの戦いは、アリーにとって致命的な影響を与えました。アリーの権威は急速に弱体化し、財政的困難にも直面することになりました。さらに、アリーに失望した一部がハワーリジュ派を結成し、彼の後を離れる事態となります。

一方で、ムアーウィヤはこの戦闘での敗北を免れ、イスラーム界での地位を強固にすることに成功します。この戦闘は、アリーの没落とムアーウィヤの台頭を決定づける重要な出来事となったといえるでしょう。

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