スイアブ

スイアブ：シルクロードの十字路に栄えた古代都市

スイアブ（Суйаб、碎葉、Sūyāb）は、かつて中央アジアに存在した重要な都市であり、現在のキルギス共和国、イシク・クル湖の北西、チュー川沿いに位置していました。都市名はチュー川を意味する「Sūy-āb」に由来すると考えられています。唐代には「碎葉」などの名で記録されています。

シルクロードの要衝

スイアブは、シルクロードの天山北路における重要な通過地点でした。ジュンガル盆地、トランスオクシアナ、中国を結ぶ交易路が交差する地点に位置し、東西交易における一大拠点として繁栄しました。多くの商人が集まり、商業植民地のような様相を呈し、遊牧民族の政権もその重要性を認識し、支配下に置いていました。

唐の進出とスイアブ

6世紀に突厥が台頭すると、スイアブはその軍事的な重要性を増し、西突厥の本拠地となりました。679年には唐によって占領され、「碎葉鎮」と改称され、安西四鎮の一つとして719年まで機能しました。唐の支配下では大規模な築城が行われ、大雲寺が建立されるなど、文化的にも重要な拠点となりました。しかし、テュルク系遊牧民の攻撃により、その地位は不安定なものでした。

唐の衰退後、テュルギシュがスイアブを占領し、本拠地としましたが、10世紀にカルルクが台頭すると、国際交易都市としての機能はベラサグンに移り、スイアブは徐々に衰退していきました。

アク・ベシム遺跡

現在のキルギス共和国トクマク近郊に位置するアク・ベシム遺跡は、スイアブの遺構であると考えられています。この遺跡からは、ソグド人の住居跡、ネストリウス派キリスト教や仏教の寺院跡などが発見されており、東西の文化交流が活発であったことを物語っています。

19世紀末から20世紀にかけて行われた調査・発掘の結果、アク・ベシム遺跡はかつて西遼（カラ・キタイ）の首都クズオルド（ベラサグン）の遺構であると考えられていましたが、後の調査で11世紀には放棄された都市であり、ベラサグンとは別の都市であることが判明し、スイアブの遺構であることが証明されました。

柿沼陽平氏の研究によれば、アク・ベシム遺跡はソグド人都市遺跡である第1シャフリスタンと、唐代に増築された碎葉鎮である第2シャフリスタンに分けられることが指摘されています。また、アク・ベシム遺跡や近隣のクラスナヤレチカ遺跡から出土した碑文の研究から、唐代には漢字文化圏がこの地域一帯に及んでいたことが明らかになっています。

アク・ベシム遺跡の面積は約30ヘクタールに及び、中国風の城砦、キリスト教の教会、ゾロアスター教徒の納骨堂、テュルク系民族の石人などが残されており、多様な文化が共存していた様子を今に伝えています。仏像や石碑のほか、ネストリウス派キリスト教の教会と墓地、フレスコ画やソグド語・ウイグル語の碑文を納めた修道院も発見されており、この地が東西文化の交流点として重要な役割を果たしていたことを示しています。

スイアブは、シルクロードの歴史において、交易、文化、軍事の面で重要な役割を果たした都市であり、アク・ベシム遺跡はその歴史を物語る貴重な遺産です。

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