スプルーアンス級駆逐艦

スプルーアンス級駆逐艦：革新的な駆逐艦の誕生

スプルーアンス級駆逐艦は、アメリカ海軍が建造した駆逐艦の艦級であり、多くの革新的な技術が導入されたことで知られています。特に、アメリカ海軍の大型艦としては初めてガスタービンエンジンを搭載した点が特筆されます。また、船体の大型化や遮浪甲板型船型の採用など、従来の駆逐艦には見られなかった特徴を備えていました。これらの特徴は、後のキッド級ミサイル[[駆逐艦]]やタイコンデロガ級[[ミサイル巡洋艦]]の設計にも影響を与え、その基盤となりました。

当初は対潜艦としての役割が重視されていましたが、冷戦終結後の国際情勢の変化に伴い、搭載されたトマホーク巡航ミサイルによる対地攻撃能力が注目されるようになりました。これにより、スプルーアンス級は従来の駆逐艦の枠を超え、攻勢的な任務にも投入されるようになりました。

開発の背景

スプルーアンス級の開発は、1959年5月にまで遡ります。当時、アメリカ海軍は、既存の駆逐艦の対潜能力と対空能力が、将来的な脅威に対して不十分であると認識していました。そこで、新たな対潜駆逐艦の開発が計画され、シーホーク計画として具体化されました。

シーホーク計画では、当時開発が進められていた様々な対潜センサーや兵器を搭載することが予定されていました。しかし、計画は主機の選定で難航しました。当初は従来型の蒸気タービンエンジンが検討されていましたが、ガスタービンエンジンの採用も検討されました。ガスタービンエンジンは高い評価を得ましたが、国防長官府の意向により、計画は一時停滞しました。また、対潜戦術の変革も計画に影響を与え、シーホーク計画は1965年に中止されました。

その後、高速化された航洋護衛艦（DE）の需要が高まり、シーホーク計画で検討されていた技術が再評価されることとなりました。同時に、老朽化したミサイル巡洋艦の代替も急務となり、対潜艦DXと防空艦DXGを同時開発するDX/DXG構想が浮上しました。この構想に基づき、1970年6月、リットン・インダストリーズがDXの建造を受注し、スプルーアンス級駆逐艦の建造が始まりました。

設計の特徴

スプルーアンス級は、その大型の船体がしばしば議論の的となりました。しかし、大型化には静粛性の向上、航洋性の確保、そして将来の発展を見据えた余裕の確保という重要な目的がありました。

静粛化

対潜戦におけるパッシブ化に対応するため、徹底した静粛性が追求されました。各種機器からの騒音を低減・遮蔽するため、多くの容積と重量が費やされました。

航洋性

空母戦闘群に随伴するため、長距離航続能力と荒れた海象での高速航行能力が求められました。従来の要求を上回る航洋性能が実現されました。

将来発展性

モジュール化やパレット化といった手法が導入され、システムの換装や将来的な発展に対応しやすい設計となりました。これにより、複雑なシステムを短期間で統合でき、またデッドスペースも有効活用されました。

船体構造

船型は、2層の全通甲板を備えた遮浪甲板型を基本とし、後端部を切り欠いた長船首楼型が採用されました。この船型により、ローリングやピッチングが低減され、フィンスタビライザーなどの減揺装置が不要となりました。また、1981年からは枢要区画にケブラーによる追加装甲が施され、防御力が強化されました。

機関

本級の最大の特色は、ガスタービンエンジンの採用にあります。当初は3基のガスタービンエンジンで2軸を駆動する方式が検討されていましたが、最終的には4基のガスタービンエンジンによるCOGAG方式に変更されました。これにより、高速航行が可能となり、また可変ピッチ・プロペラの採用により、後進時の機関の複雑化が解消されました。

電源

電源としては、3基のガスタービン発電機が搭載され、艦内の電力需要を十分に満たすことができました。また、将来的なシステムの増強に備え、変電設備の増設スペースも確保されました。

装備

スプルーアンス級は、当初は対潜戦を主眼とした装備が搭載されていましたが、後に多様な任務に対応できるよう装備が更新・強化されました。

C4I

本級は、アメリカ海軍の駆逐艦として初めて海軍戦術情報システム（NTDS）を搭載し、デジタル化された戦闘システムを備えていました。これにより、艦の戦闘システムが統合され、効率的な戦闘指揮が可能となりました。

対潜戦

対潜戦装備は極めて充実しており、バウ・ドームに収容されたソナーのほか、曳航ソナーも搭載されました。また、対潜戦システムの統合化により、情報の迅速な処理と対応が可能となりました。

対空戦

対空戦装備としては、シースパローIBPDMSやファランクスCIWSが搭載されました。また、一部の艦には低空警戒レーダーが搭載され、対艦ミサイル防御能力が強化されました。

対水上戦

艦砲としては、127mm砲を艦首尾に搭載し、Mk.86 砲射撃指揮装置により管制されました。対艦兵器としては、ハープーン艦対艦ミサイルやトマホーク巡航ミサイルが搭載されました。トマホークは、特に冷戦終結後、対地攻撃能力を強化する上で重要な役割を果たしました。

電子戦

電子戦システムとしては、対艦ミサイル防御を想定したAN/SLQ-32が搭載されました。初期には電子戦支援機能のみでしたが、後に電子攻撃機能も追加されました。

航空機

LAMPSヘリコプターの運用能力を備え、対潜戦や捜索救難などの任務に活用されました。当初はSH-2ヘリコプターが搭載されていましたが、後にSH-60Bヘリコプターが導入されました。

派生型と退役

スプルーアンス級は、当初はDX/DXG構想における対潜艦として設計されましたが、後に防空艦としての役割を担うキッド級ミサイル[[駆逐艦]]やタイコンデロガ級[[ミサイル巡洋艦]]のベースとなりました。しかし、最終的に、DXG計画は破棄され、スプルーアンス級の派生型は、キッド級とタイコンデロガ級に留まりました。スプルーアンス級は、アーレイ・バーク級[[ミサイル[[駆逐艦]]]]の登場により、2005年までに全艦が退役しました。しかし、一部の艦は自衛テスト艦として再利用されています。

登場作品

スプルーアンス級は、映画や漫画、ゲームなど、様々なメディア作品にも登場しています。その代表的な作品としては、映画『パール・ハーバー』や漫画『沈黙の艦隊』などが挙げられます。

まとめ

スプルーアンス級駆逐艦は、アメリカ海軍の駆逐艦の歴史において、その後の艦艇設計に大きな影響を与えた画期的な艦級です。ガスタービンエンジンの採用や、多用途性、高い対潜能力と対地攻撃能力は、今日の駆逐艦にも受け継がれています。

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