スモレンスク公国

スモレンスク公国：交易と勢力争いの狭間で消えたルーシの公国

概要

スモレンスク公国は、12世紀から14世紀にかけて、現在のロシア西部、スモレンスクを首都として栄えたルーシの諸公国の一つです。ドニエプル川、ヴォルガ川、西ドヴィナ川の三河川上流域に広がる肥沃な土地を領土とし、東スラヴ系民族であるクリヴィチ族の居住地と重なっていました。特に、東西交易の要衝である「ヴァリャーグからギリシアへの道」が領土内を通過していたため、交易による経済的な繁栄を享受しました。

地理と都市

スモレンスク公国の領土は、豊かな自然資源と交易路という地理的優位性を兼ね備えていました。首都スモレンスクに加え、ベールイ、ヴャジマ、ドロゴブージ、エリニャ、ジジェツ、ズブツォフ、イジャスラヴリ、クラスヌィー、クリチェフ、メドゥイニ、モジャイスク、ムスチスラヴリ、ヴォルシャ、ルジェフ、ロスチスラヴリ、ルドニャ、スラヴゴロド、トロペツなど多くの都市が栄えました。これらの都市は、交易や行政の中心地として、公国の発展に貢献しました。

歴史：草創期から全盛期へ

スモレンスクの名称が文献に初めて登場するのは863年です。その後、キエフ大公国の支配下に入り、11世紀にはヤロスラフ1世の遺言によってヴャチェスラフ、その後イーゴリがスモレンスク公に任じられました。1097年のリューベチ諸公会議でウラジーミル・モノマフの世襲領土と認められ、公国の基盤が固まりました。

12世紀半ば、ロスチスラフの治世（1127年-1160年）には公国の全盛期を迎えました。キエフ大公国の内乱にも関わらず、スモレンスク公国の独立を守り抜き、強大な勢力を築きました。この時代、ウラジーミル公アンドレイの支配から脱し、ウラジーミル公コンスタンチンを支援するなど、積極的な外交政策を展開しました。チュヂ族への遠征にも勝利し、キエフ大公位やガーリチ公位への影響力を行使するなど、勢力を拡大しました。また、リガやゴットランド島との交易を拡大し、蝋、蜂蜜、毛皮などを輸出、ラシャ、生姜、砂糖漬けのソラマメ、燻製の鮭など多様な商品を輸入する国際的な貿易拠点として発展しました。

ムスチスラフの治世（1219年-1230年）には、隣国のポロツク公国の弱体化に乗じて勢力拡大を図りました。ポロツク公国はリトアニア大公国とリヴォニア帯剣騎士団の侵攻によって衰退しており、スモレンスク公国はポロツクに介入し、支配下に置きました。しかし、1223年のカルカ河畔の戦いでのモンゴル軍との戦闘で軍事資源を消耗し、西方からのリトアニアの脅威に対処するために、ウラジーミル大公国に援助を求めるなど、厳しい状況に置かれるようになりました。

衰退と滅亡

1274年以降、スモレンスク公国は衰退期に入ります。ジョチ・ウルスの支配が及ぶようになり、モンゴルの課税対象となりました。13世紀後半には、ヴャジマ、モジャイスクなどの都市が独立傾向を強め、公国は分裂を始めます。

14世紀に入ると、スモレンスク公国はリトアニア大公国とモスクワ大公国の勢力争いの舞台となりました。ジョチ・ウルスへの税の支払いを拒否した結果、モスクワ大公国、リャザン大公国、ジョチ・ウルスの連合軍の攻撃を受けました。リトアニアと同盟を結んだり、モスクワと協力したりと、複雑な外交関係を展開しましたが、結局はリトアニア大公国の圧力に屈しました。1386年のヴィフラ川の戦いでの敗北、1395年のヴィータウタスのスモレンスク包囲、そして1403年の最終的な併合によって、スモレンスク公国はリトアニア大公国に併合され、その歴史に幕を閉じました。

スモレンスク公国の歴史は、東欧における交易、勢力争い、そしてモンゴル帝国の台頭といった様々な要因が複雑に絡み合った結果、興亡を繰り返した一つのルーシ公国の歴史を示しています。

もう一度検索