スーパー1600

スーパー1600：WRCを支えた低コストカテゴリーの軌跡

スーパー1600（Super 1600、S1600とも表記）は、国際自動車連盟（FIA）が定めた車両規定の一つです。1990年代後半、世界ラリー選手権（WRC）で高度化しすぎた二輪駆動規定『F2キットカー』に代わるものとして、2001年に導入されました。

コストを抑えた競技車両

スーパー1600は、グループA公認を取得した自然吸気エンジン搭載の前輪駆動車（最大排気量1640cc）をベースに、比較的安価に改造できる規定として設計されました。グループA6に相当するこのクラスは、25セットの改造キットを生産することがホモロゲーション取得の条件の一つでした。

競技用チューニングが施されたエンジンは最大240馬力を発生し、給排気系の変更や6速シーケンシャルシフトへの換装が許されました。最低重量は980kgと設定され、初期段階においてはグループN車両を上回るエンジンレスポンスとハンドリング性能を誇り、「グループNが市販車なら、スーパー1600は純レーシングカー」と評されるほどでした。高度な電子制御は禁止され、販売価格は10万ドル（当時約1100万円）以下に抑えられました。まさにWRCの入門カテゴリーにふさわしい存在だったと言えるでしょう。

規定の厳格化と発展

開発競争の激化を抑制するため、FIAはホモロゲーション取得後の改良を厳しく制限しました。取得後1年間は5ヶ所、その後も5ヶ所の計10ヶ所しか改良できず、この制限には「ジョーカー」や誤記訂正も含まれていました。この制約は信頼性問題の解決を困難にし、一部メーカーに大きな負担をかけました。ただし、新型車両のホモロゲーション取得によって、この制限をリセットすることが可能でした。

スーパー1600は2001年、WRC併催シリーズ『FIAスーパー1600カップ』としてスタートし、2002年にはジュニア世界ラリー選手権（JWRC）に改称されました。2003年には28歳以下の若手育成カテゴリーに方向転換し、新たなステージへ。

メーカーの参入とカテゴリーとしての課題

当時、WRCには高コストなWRカー規定のWRC、グループN規定のPWRC（プロダクションカー[[世界ラリー選手権]]）、そしてスーパー1600のJWRCの3カテゴリーしか存在しませんでした。そのため、低コストで参戦できるJWRCには多くのメーカーが参加しました。シトロエン、プジョー、フォードといったWRカー参戦メーカーも若手育成のためJWRCに参入し、2004年には10社近いメーカーがしのぎを削る混戦となりました。スーパー1600カップではワークス参戦が禁止されていましたが、実際には早い段階から形骸化していました。

しかし、JWRCはいくつかの課題を抱えていました。JWRCでチャンピオンになってもWRカーメーカーのシートが確保されないケースが多く、ステップアップが困難でした。また、タイヤ戦争を抑えるために導入されたコントロールタイヤが、特定の車種に過度に有利に働く問題も指摘されていました。

スーパー1600の終焉とその後

ワークス参戦が激化したスーパー1600では、メーカーやプライベーターの撤退が相次ぎ、エントリー数は減少の一途を辿りました。2006年頃にはスズキ、シトロエン、ルノーしか興味を示さなくなっていました。その後、1600ccの純グループA車両や2000ccまでのグループN車両、さらに安価なR2～R3車両の参戦が認められるようになり、スーパー1600は徐々にその役割を終えていきました。最終的には2011年以降、R1～R3からFIAが指定する二輪駆動車によるワンメイクカテゴリに置き換えられ、スーパー1600の時代は幕を閉じました。

その後も、プライベーターによってローカルラリーで使用されたり、スーパー2000時代の欧州ツーリングカーカップやドイツツーリングカーカップの下位クラス、世界ラリークロス選手権（World RX）や欧州ラリークロス選手権（EuroRX）の『RX3』相当カテゴリなどで使われるなど、その存在感はラリー界に留まりませんでした。

スーパー1600に参戦した車両

スーパー1600には、多くの車種が参戦しました。代表的な車種としては、オペル・コルサ、シトロエン・サクソ、スズキ・スイフト、フォード・フィエスタ、プジョー206、ルノー・クリオなどがあります。ラリークロスでは、ルノー・トゥインゴ、アウディA1、シュコダ・ファビアなども使用されました。シトロエン・サクソは、2003年生産のファイナルモデルに「スーパー1600」という名称を冠して販売されたこともありました。

スーパー1600は、コストパフォーマンスに優れた規定としてWRCに貢献し、多くの若手ドライバーを育成しました。その歴史と功績は、ラリー史に刻まれています。

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