グループN

グループN：市販車ベースのレーシングカーの系譜

グループNは、国際[[自動車連盟]]（FIA）が定めた自動車レースにおける車両カテゴリーの一つです。1981年、FIAの前身組織である国際自動車スポーツ連盟（FISA）が、それまでの数値によるレギュレーションをアルファベットに簡素化した際に誕生しました。グループ1の後継として位置づけられ、部門Ⅰ（量産車部門）に属する「プロダクションカー（無改造車）」と定義されています。

グループNの最大の特徴は、市販車をベースに改造を加える点にあります。グループAやグループBと同様のコンセプトですが、改造範囲は非常に狭く、FIA規格の中で最も市販車に近い規定と言えるでしょう。具体的には、連続12ヶ月間に2500台以上（1993年以降、それ以前は5000台以上）生産された4座席以上の車両がホモロゲーション（型式承認）の対象となります。グループNのホモロゲーションを取得した車両は、同時にグループAのホモロゲーションも取得することになります。ただし、プロダクションカー[[世界ラリー選手権]]（PWRC）では、参戦車両の増加を促進するため、生産台数が1000台以上であればホモロゲーションが認められる特例が設けられていました。生産中止から7年後に250台未満しか生産されていない場合は、公認は無効となります。

排気量による分類も特徴的です。排気量1400cc以下はN1、1401～1600ccはN2、1601～2000ccはN3、2000cc以上はN4と分類され、過給機付車両は排気量に1.7倍の係数を乗じた数値が適用されます。初期のスーパー2000規定車両は便宜上N4に分類されていました。

エンジン関連では、インテーク／エキゾーストマニホールド、ターボチャージャー、ラジエーター、インタークーラー、オルタネーター、ウォーターポンプなど、市販車と同一の部品が求められます。排気量、最低車重、ホイール径、幅、最低地上高、トレッド、駆動形式、サスペンション形式なども、ホモロゲーションシートに記載された数値を厳守しなければなりません。ベース車両となる市販車の性能が、そのまま車両性能に直結すると言えるでしょう。

一方で、ロールケージや消火器といった安全装備の装着は必須であり、座席の取り外し、サスペンションやショックアブソーバー、ブレーキ類の素材変更、エンジンコントロールユニットのチューニングなども認められています。そのため、厳密には「市販車」とは言えない部分も多いと言えるでしょう。ベースエンジンの強化とチューニングによって、吸気リストリクター装着下でも250馬力程度の出力は実現可能であり、2008年時点では初期WRカーを上回る速度と、2000年代半ばのWRカー並みの600Nm（約61.2kgf・m）のトルクを達成していた車両もありました。2000年代末期のPWRCでは、インタークーラーやオイルクーラーの変更、フロアガードやブレースの素材変更など、改造範囲が拡大され、各コンストラクターによる開発競争が激化しました。

1987年のWRCプロダクションカップ創設以降、ランチア・デルタHFインテグラーレ、日産パルサーGTI-R、マツダ323 4WDターボなど、グループAマシンのベースとなった4WDスポーツ車が数多く参戦しました。ルノー5 GTターボは2年連続でタイトルを獲得し、1989年のコートジボワールラリーではグループN車両として唯一のWRC総合優勝を達成しました。しかし、グループAはメーカーにとって負担が大きく、1990年代半ば以降はWRカー規定の導入により衰退していきました。グループNカップやPWRCでは、スバル・インプレッサと三菱ランサーエボリューションの寡占状態が続き、他社の参入が困難となる状況が生じました。

そこでFIAは、大衆車をベースに大規模な改造を施すことでN4に匹敵する戦闘力を得られるスーパー2000規定を導入（2007年）、グループN1～N3は廃止され、R1～R3に置き換えられました。しかし、スーパー2000がN4を圧倒するようになり、2010年からはPWRCとSWRCに分離。2013年にはWRC2に統合されましたが、グループNにはプロダクションカップが設定されました。

2010年のERC（ヨーロッパ・ラリー選手権）では、前輪駆動、ターマック限定ながら、ルノー・メガーヌがグループN4の新車として投入されました。IRC、ERC、APRCなどでは、改造範囲を拡大したグループR4が導入されましたが、スーパー2000には及ばず、スーパー2000はグループR5に代替され、R4も2015年にFIA主催シリーズの欧州イベントでの使用が禁止されました。

WRCおよびWRC2へのグループNの年間エントリーはしばらく認められていましたが、実際には使用されず、2019年以降は地元チームの賞典外でのみ参戦可能となりました。FIA管轄の地域選手権では、2013年以降はスーパー2000やグループR5／Rally2の下位クラスに位置づけられています。各国ASN管轄の国内選手権では、グループNに類似する規定が最高クラスとして採用されるケースもありますが、ベース車両の不足からグループRallyや独自の改造車規定が台頭し、下位クラス化が進んでいます。スペインには独自規定の「グループN5」が存在しますが、これはFIAのグループNとは全く異なります。ツーリングカーレースでは、ローカルレベルでグループAの下位クラスとして使用されることもありました。90年代末には、グループN車両をベースに小規模な改造を加えた「グループST（スーパープロダクション）」が誕生し、後のスーパー2000規定の基礎となりました。

グループNは、かつては盛況を極めたカテゴリーでしたが、時代の流れとともに衰退していきました。それでも、国内選手権などでは独自の規定として生き残っており、その歴史と意義は今もなおモータースポーツの歴史に刻まれています。

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