タウリカ

タウリカ：クリミア半島の古名とその歴史

タウリカ（Taurica）は、古典古代においてクリミア半島を指す地名であり、近世まで用いられました。古代ギリシア人は、この地の住民であったタウロイ人の名にちなんでタウリカと名付けました。ギリシア語では「半島」を意味する「ケルソネソス」を用いてタウリケ・ケルソネソスと呼ばれ、ラテン語化してケルソネスス・タウリカ、または単にタウリスとも呼ばれました。ロシア語ではタヴリダと呼ばれ、クリミア半島の別名として用いられました。

ギリシア神話におけるタウリカ

ギリシア神話では、タウリカは悲劇的な運命を辿った王女イピゲネイアの物語と深く結びついています。父王アガメムノンが生贄として捧げようとしたイピゲネイアは、女神アルテミスによって救われ、タウリカの神殿へと送られます。そこで彼女は、捕らえられた外国人を神に捧げるという役割を担いますが、生贄として連れてこられた弟オレステスとの再会を果たし、女神の助けを得て故郷ギリシアへと帰還します。この神話は、タウリカが異文化との接触点であり、運命が交錯する地であったことを示唆しています。

ギリシア人入植以前のタウリカ

タウリカの最初の住民はキンメリア人であったとされています。紀元前7世紀には、スキタイ人の侵入によってキンメリア人は山岳部へと追いやられ、後にタウロイ人として知られるようになりました。タウリカという地名は、このタウロイ人に由来します。スキタイ人はタウリカ内陸部のステップ地帯を支配しました。アケメネス朝のダレイオス1世がスキタイ征伐を行った際、スキタイは周辺諸族に協力を求めましたが、タウロイ人はスキタイを信用せず、協力しませんでした。

タウリカの植民都市

紀元前6世紀、ギリシア人はタウリカの沿岸部にテオドシア（現在のフェオドシヤ）やパンティカパイオン（現在のケルチ）などの植民都市を建設しました。中でもケルソネソス（現在のセヴァストポリ近郊）は重要な都市でした。ケルソネソスにはヘラクレア・ポンティカからのドーリア人が、テオドシアにはミレトスからのイオニア人が入植しました。

植民都市は、肥沃なアゾフ海沿岸から穀物や蜂蜜をギリシアへと輸出する交易路を確立し、相互の連携を深めました。紀元前5世紀前半には、アゾフ海と黒海を結ぶケルチ海峡を抑えるパンティカパイオンを中心に、ボスポロス王国が成立しました。ボスポロス王国の王はアテナイと密接な関係を持ち、小麦などを供給していました。

歴史家ディオドロスによると、紀元前480年から438年までアルカイアナクス家がこの地域を統治していましたが、トラキア人の僭主スパルトコスによって取って代わられ、彼の王朝が紀元前110年頃まで続きました。

スポルトコス朝最後のボスポロス王ペリサデス5世は、紀元前114年、スキタイ人の脅威に直面し、黒海南岸のポントス王ミトリダテス6世に保護を求めました。紀元前1世紀、ローマのポンペイウスに敗れたミトリダテスは、コルキス（現在のグルジア）からコーカサス山脈を超えてボスポロス王国の支配者（副王）となっていた長男マカレスを頼りました。マカレスが非協力的だったため、ミトリダテスは彼を殺害し、ボスポロス王国を支配しましたが、別の息子ファルナケス2世に殺害されました。

ポンペイウスはファルナケス2世をポントスとボスポロスの王と認め、タウリカはローマ帝国の支配下に入りました。ファルナケス2世はポンペイウスとガイウス・ユリウス・カエサルとの内戦に参加し、カエサルに敗れました。力を失ったポントス王国はやがて解体されましたが、タウリカのボスポロス王国はローマの支配下で命脈を保ちました。

タウリカは、様々な民族と文化が交錯し、複雑な歴史を辿った地です。ギリシア神話の舞台となり、ギリシア人の植民都市が繁栄し、ボスポロス王国が成立し、そしてローマ帝国の支配下に入るという歴史は、クリミア半島の多様な文化遺産を物語っています。

もう一度検索