タガチャル

タガチャル：テムゲ・オッチギン家の当主として帝位継承戦争で活躍

タガチャル（? - 1278年?）は、チンギス・カンの末弟テムゲ・オッチギンの孫にあたるモンゴル帝国の皇族です。漢文史料では「塔察児国王」、ペルシア語史料では「Taghāchār Nūyān」と記されています。

若き日の苦難と家督相続

タガチャルは、テムゲ・オッチギンの息子ジブゲンの子として生まれましたが、父の早世により若くしてオッチギン王家の当主となりました。しかし、若年を理由に庶兄トデに廃嫡されそうになります。王傅コルコスンとウイグル人重臣サルギスがドレゲネ太后に直訴したことで、タガチャルの家督相続は中央政府に認められました。この功績により、オッチギン家の所領は南北に分割され、それぞれコルコスンとサルギスが管理することになりました。この事件から、オッチギン家の所領が黒山（大興安嶺山脈）山麓、フルンボイル方面にあったことが分かります。

モンケ擁立への貢献

1248年、グユク・カアン崩御後のクリルタイで、タガチャルはジョチ家のバトゥやトゥルイ家のアリク・ブケらと共にモンケを支持しました。オゴデイ家の反対でカアンは決まらず、1251年のクリルタイでカサル家のイェグ・トク・イェスンゲやカチウン家のアルチダイらとモンケの即位に貢献しました。

1252年、カサル家のイェグを総司令とする高麗遠征に従軍。1253年7月、イェグがタガチャルの陣営を襲撃するという事件が発生します。詳細は不明ですが、タガチャルが尊重されイェグが処罰されるという結果になりました。

南宋遠征と襄陽撤退事件

モンケ即位後、クビライとフラグを総司令官とする東アジア・西アジア遠征が計画され、タガチャルはクビライ率いる南征軍に参加。しかし、南宋攻略の方針を巡りモンケとクビライが対立すると、タガチャルは左翼軍の総司令としてモンケに先行して南宋を攻めることになりました。

タガチャル率いる軍は、東方三王家や「左手の五投下」など、実戦経験豊富な精鋭部隊でした。1257年、南宋の重要拠点である襄陽・樊城を攻囲しますが、秋の長雨もしくはタガチャルの怠慢により、わずか1週間で撤退。この撤退は、前年にタガチャルの軍が人民の羊や豚を略奪したことへの処罰が関係しているとも推測されています。

モンケはタガチャルの撤退に激怒し一時更迭しますが、1258年初頭にクビライとの会談で南宋遠征計画を手直しし、タガチャルを再び左翼軍の指揮官に任命。新たな作戦では、タガチャルは東方淮水流域の荊山に攻め入り、南宋軍を分散させる役割を担いました。

同年11月、タガチャルはモンケ本隊に合流し、作戦計画の打ち合わせや「五投下」軍の移管が行われました。その後、タガチャルはクビライ軍と合流し、左翼軍の指揮権を委ね、東方三王家の軍を率いて荊山への侵攻を開始しました。

しかし、「襄陽撤退事件」によりモンゴル軍の南宋侵攻作戦は狂い、モンケ本隊が先行した結果、モンケ自身が四川で病没するという事態に陥りました。

帝位継承戦争での活躍と晩年

モンケの死後、クビライとアリク・ブケの間で帝位継承戦争が勃発。タガチャルは妹を嫁がせた漢人軍閥の李璮と共に淮安方面で南宋に侵攻していましたが、サルギスの進言を受けクビライを支持することを決定しました。

1260年3月、開平で開かれたクリルタイで、タガチャルは東道諸王の代表としてクビライをカアンに推戴。東道諸王軍はアリク・ブケとの戦いでクビライ側の主力として活躍し、タガチャルはクビライから多くの下賜品を受けました。1261年のシムルトゥ・ノールの戦いでは、アリク・ブケ軍の主力を破り、クビライ側の勝利を決定づけました。

帝位継承戦争後、タガチャルはクビライ擁立の功労者として重用され、オッチギン王家は大元ウルス屈指の有力王家として繁栄しました。1278年に起こったシリギの乱に関与したベルグタイ家のジャウドゥの処罰にタガチャルが関わったという記述や、1273年まではタガチャルに関する記述が見られることから、1278年前後に亡くなったと推測されています。

子孫

『集史』によれば、タガチャルの後を継いだのは息子のアジュルとされていますが、アジュルの事績に関する記述はほとんどなく、その後のオッチギン王家は、アジュルの息子ナヤンが受け継いだものと考えられています。

オッチギン王家

テムゲ・オッチギン
ジブゲン大王
タガチャル国王
アジュル大王
ナヤン大王
遼王トクトア
遼王ヤナシュリ
遼王アジャシュリ
寿王ナイマダイ

参考文献

杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年
堀江雅明「テムゲ＝オッチギンとその子孫」『東洋史苑』 龍谷大学東洋史学研究会、1985年
『新元史』巻105列伝2
* 『蒙兀児史記』巻22列伝4

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