タマーラ・カルサヴィナ
タマーラ・プラトーノヴナ・カルサヴィナ（1885年3月10日 - 1978年5月26日）は、ロシア帝国出身のバレリーナで、20世紀前半を代表するダンサーの一人です。彼女は、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場でプリマ・バレリーナを務める一方で、セルゲイ・ディアギレフが主宰するバレエ・リュス（ロシア・バレエ団）の中心ダンサーとしても国際的に活躍しました。
1885年、サンクトペテルブルクで生まれたカルサヴィナは、父プラトン・カルサヴィンも帝室バレエのダンサーという環境で育ち、幼い頃からバレエの世界に足を踏み入れました。当初はマダム・ジューコヴァ、後に父からバレエの指導を受け、1894年には帝室マリインスキー劇場附属舞踊学校に入学。同校ではパーヴェル・ゲルトに師事し、17歳という若さで首席卒業を果たしました。1902年5月には、マリインスキー劇場でデビュー。コール・ド・バレエ（群舞）を経ることなくコリフェとして入団し、クリスティアン・ヨハンソンやエンリコ・チェケッティなど著名な指導者の下で研鑽を積み、入団3年目には第2ソリストに昇進しました。
1905年の日露戦争中には、血の日曜日事件を発端とするロシア第一革命が勃発。この社会的混乱の中で、帝室バレエ団内でも芸術の自治や待遇改善を求める動きが高まり、カルサヴィナもアンナ・パヴロワ、ミハイル・フォーキンらとともに代表者として劇場に嘆願書を提出しましたが、要求は受け入れられませんでした。この騒動は、バレエ団内に大きな亀裂を生み、カルサヴィナと親交のあったセルゲイ・レガートが自殺するという悲劇も起こりました。
カルサヴィナは、この騒動の数年前からフォーキンと恋愛関係にありましたが、母親の反対により結婚には至らず、1907年には財務省職員のワシーリイ・ムーヒンと結婚しました。
1909年、セルゲイ・ディアギレフは、パリでバレエ公演を企画し、この公演がバレエ・リュスの事実上の旗揚げとなりました。カルサヴィナもこの公演に参加し、パヴロワ、フォーキン、ニジンスキーらと共に舞台に立ちました。当初はパヴロワが目玉とされていましたが、彼女が公演前半に参加できなかったため、カルサヴィナは『アルミードの館』で主役の代役を務めることになり、その素晴らしい演技によって一躍パリで注目を浴びる存在となりました。
翌1910年には、パヴロワが他の契約を優先したため、『ジゼル』と『火の鳥』の主役をカルサヴィナが演じることになりました。特にストラヴィンスキー作曲、フォーキン振付の『火の鳥』は、カルサヴィナの当たり役となり、パヴロワの「瀕死の白鳥」に匹敵するほどの名演と称されました。この成功により、ディアギレフはバレエ・リュスを常設のバレエ団とすることを決意し、カルサヴィナもマリインスキー劇場のプリマ・バレリーナの地位を保持したままバレエ・リュスに参加することになりました。
第一次世界大戦勃発まで、カルサヴィナは『薔薇の精』、『ペトルーシュカ』、『タマーラ』、『ダフニスとクロエ』など、数々の作品に出演し、ニジンスキーとのパートナーシップで観客を魅了しました。
1914年、第一次世界大戦の勃発により、カルサヴィナはロシアへ帰国する際に大きな困難を伴いました。その後5年間はバレエ・リュスでの活動が不可能になり、マリインスキー劇場での活動に専念することになりました。この間に最初の夫と離婚し、1915年にイギリスの外交官ヘンリー・ブルースと再婚しました。
1917年のロシア革命後も、カルサヴィナはダンサー委員会の長として活動を続けましたが、1918年、情勢の不安定さから夫と息子とともにロシアを脱出し、イギリスへ亡命しました。
1919年からは再びバレエ・リュスに参加し、『三角帽子』、『ナイチンゲールの歌』などに出演しましたが、以前に比べると出演頻度は少なくなりました。1928年には、かつてのパートナーであるニジンスキーと再会しましたが、ニジンスキーは精神を病んでおり、カルサヴィナの姿を認識することはできませんでした。
イギリスに渡ったカルサヴィナは、1930年から1931年にかけてバレエ・クラブにゲスト出演し、1931年にバレリーナとしての活動を引退しました。その後は、バレエ・クラブ（後のバレエ・ランバート）やロイヤル・バレエなどのカンパニーに、バレエ・リュスやマリインスキー劇場のレパートリーを指導し、イギリスのバレエ界の発展に大きく貢献しました。フレデリック・アシュトンやマーゴ・フォンテインなど、多くの英国人ダンサーが彼女の指導を受けました。
また、文筆活動にも力を入れ、エッセイやバレエに関する理論書、自伝『劇場通り』などを執筆しました。特に『劇場通り』は、自身の前半生を綴った自伝として広く知られています。
1946年から1955年にかけては、ロイヤル・アカデミー・オブ・ダンシング（RAD）の副会長を務め、イギリスのバレエ発展に尽力しました。
カルサヴィナは1951年に夫を亡くし、1978年にベコンズフィールドで生涯を終えました。
カルサヴィナは、当時のバレリーナの中でも特に知的で教養にあふれていたことで知られています。幼い頃から文学に親しみ、バレエ・リュス幹部からもその知性を高く評価されていました。ディアギレフからは「わが子」と可愛がられましたが、その美貌と知性に惹かれていたとも言われています。また、保守的で貞操観念が強く、他のバレリーナとは一線を画していました。
カルサヴィナは、卓越した才能と知性、情熱をもってバレエの世界に貢献し、その名はバレエ史に永遠に刻まれています。
ロシア時代
1885年、サンクトペテルブルクで生まれたカルサヴィナは、父プラトン・カルサヴィンも帝室バレエのダンサーという環境で育ち、幼い頃からバレエの世界に足を踏み入れました。当初はマダム・ジューコヴァ、後に父からバレエの指導を受け、1894年には帝室マリインスキー劇場附属舞踊学校に入学。同校ではパーヴェル・ゲルトに師事し、17歳という若さで首席卒業を果たしました。1902年5月には、マリインスキー劇場でデビュー。コール・ド・バレエ（群舞）を経ることなくコリフェとして入団し、クリスティアン・ヨハンソンやエンリコ・チェケッティなど著名な指導者の下で研鑽を積み、入団3年目には第2ソリストに昇進しました。
1905年の日露戦争中には、血の日曜日事件を発端とするロシア第一革命が勃発。この社会的混乱の中で、帝室バレエ団内でも芸術の自治や待遇改善を求める動きが高まり、カルサヴィナもアンナ・パヴロワ、ミハイル・フォーキンらとともに代表者として劇場に嘆願書を提出しましたが、要求は受け入れられませんでした。この騒動は、バレエ団内に大きな亀裂を生み、カルサヴィナと親交のあったセルゲイ・レガートが自殺するという悲劇も起こりました。
カルサヴィナは、この騒動の数年前からフォーキンと恋愛関係にありましたが、母親の反対により結婚には至らず、1907年には財務省職員のワシーリイ・ムーヒンと結婚しました。
バレエ・リュス
1909年、セルゲイ・ディアギレフは、パリでバレエ公演を企画し、この公演がバレエ・リュスの事実上の旗揚げとなりました。カルサヴィナもこの公演に参加し、パヴロワ、フォーキン、ニジンスキーらと共に舞台に立ちました。当初はパヴロワが目玉とされていましたが、彼女が公演前半に参加できなかったため、カルサヴィナは『アルミードの館』で主役の代役を務めることになり、その素晴らしい演技によって一躍パリで注目を浴びる存在となりました。
翌1910年には、パヴロワが他の契約を優先したため、『ジゼル』と『火の鳥』の主役をカルサヴィナが演じることになりました。特にストラヴィンスキー作曲、フォーキン振付の『火の鳥』は、カルサヴィナの当たり役となり、パヴロワの「瀕死の白鳥」に匹敵するほどの名演と称されました。この成功により、ディアギレフはバレエ・リュスを常設のバレエ団とすることを決意し、カルサヴィナもマリインスキー劇場のプリマ・バレリーナの地位を保持したままバレエ・リュスに参加することになりました。
第一次世界大戦勃発まで、カルサヴィナは『薔薇の精』、『ペトルーシュカ』、『タマーラ』、『ダフニスとクロエ』など、数々の作品に出演し、ニジンスキーとのパートナーシップで観客を魅了しました。
第一次世界大戦とロシア革命
1914年、第一次世界大戦の勃発により、カルサヴィナはロシアへ帰国する際に大きな困難を伴いました。その後5年間はバレエ・リュスでの活動が不可能になり、マリインスキー劇場での活動に専念することになりました。この間に最初の夫と離婚し、1915年にイギリスの外交官ヘンリー・ブルースと再婚しました。
1917年のロシア革命後も、カルサヴィナはダンサー委員会の長として活動を続けましたが、1918年、情勢の不安定さから夫と息子とともにロシアを脱出し、イギリスへ亡命しました。
1919年からは再びバレエ・リュスに参加し、『三角帽子』、『ナイチンゲールの歌』などに出演しましたが、以前に比べると出演頻度は少なくなりました。1928年には、かつてのパートナーであるニジンスキーと再会しましたが、ニジンスキーは精神を病んでおり、カルサヴィナの姿を認識することはできませんでした。
イギリスでの活動
イギリスに渡ったカルサヴィナは、1930年から1931年にかけてバレエ・クラブにゲスト出演し、1931年にバレリーナとしての活動を引退しました。その後は、バレエ・クラブ（後のバレエ・ランバート）やロイヤル・バレエなどのカンパニーに、バレエ・リュスやマリインスキー劇場のレパートリーを指導し、イギリスのバレエ界の発展に大きく貢献しました。フレデリック・アシュトンやマーゴ・フォンテインなど、多くの英国人ダンサーが彼女の指導を受けました。
また、文筆活動にも力を入れ、エッセイやバレエに関する理論書、自伝『劇場通り』などを執筆しました。特に『劇場通り』は、自身の前半生を綴った自伝として広く知られています。
1946年から1955年にかけては、ロイヤル・アカデミー・オブ・ダンシング（RAD）の副会長を務め、イギリスのバレエ発展に尽力しました。
カルサヴィナは1951年に夫を亡くし、1978年にベコンズフィールドで生涯を終えました。
人物
カルサヴィナは、当時のバレリーナの中でも特に知的で教養にあふれていたことで知られています。幼い頃から文学に親しみ、バレエ・リュス幹部からもその知性を高く評価されていました。ディアギレフからは「わが子」と可愛がられましたが、その美貌と知性に惹かれていたとも言われています。また、保守的で貞操観念が強く、他のバレリーナとは一線を画していました。
カルサヴィナは、卓越した才能と知性、情熱をもってバレエの世界に貢献し、その名はバレエ史に永遠に刻まれています。
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