タンクレード (ガリラヤ公)

タンクレーディ：第一回十字軍の英雄

タンクレーディ（1072/6年 - 1112年12月5/12日）は、第一回十字軍において重要な役割を果たした、傑出した騎士の一人です。ゴドフロワ・ド・ブイヨンの腹心として知られ、その武勇と政治的手腕は、十字軍国家の成立と発展に大きく貢献しました。

生い立ちと血筋

タンクレーディは、善良侯オドンとオートヴィルのエマの間に生まれました。エマは、南イタリアを征服し、ノルマン朝シチリア王国を築いたロベルト・イル・グイスカルドの娘であり、タンクレーディはロベルトの孫、アンティオキア公ボエモン1世の甥にあたります。この高貴な血筋が、彼の後の活躍に大きな影響を与えました。

第一回十字軍への参加

1096年、タンクレーディは叔父であるボエモン率いるノルマン軍と共に十字軍に参加しました。コンスタンティノープルで東ローマ帝国皇帝アレクシオス1世コムネノスに謁見した際、彼は他の十字軍諸侯とは異なり、征服地の返還誓約を拒否しました。この態度は、彼の独立心と強い意志を示すものでした。

ニカイア攻囲戦では、東ローマ帝国が十字軍を出し抜き、ニカイアを自らの支配下に置いたため、十字軍と東ローマ帝国の間に不信感が生まれました。タンクレーディは、本隊とは別行動を取り、キリキアの都市を征服しながら東へと進軍しました。その後、アンティオキア攻囲戦に参加し、陥落後、ボエモンがアンティオキア公国を建国すると、タンクレーディはゴドフロワらと共にエルサレムを目指しました。

1099年、聖地へ向かう途中で、タンクレーディはレバノンのアルカやパレスチナのベツレヘムを攻略しました。エルサレム攻囲戦では、彼は街の一番乗りを主張し、神殿の丘を占領。モスクに逃れたムスリム市民の安全を保証しましたが、彼らは結局虐殺されてしまいました。この事件にタンクレーディは激怒したと言われています。

エルサレム陥落後、タンクレーディは聖地に留まり、エルサレム王国の成立に尽力。ガリラヤ公国の公爵となりました。

アンティオキア公国摂政としての活躍

1100年、ボエモン1世が捕虜となると、タンクレーディはアンティオキア公国の摂政として、その領土拡大に力を注ぎました。彼は周辺のセルジューク朝や東ローマ帝国から領土を奪い、公国の勢力を拡大しました。しかし、東ローマ帝国皇帝アレクシオス1世は、タンクレーディの勢力拡大を警戒し、様々な圧力を加えましたが、タンクレーディは屈しませんでした。

1103年、ボエモン1世が釈放されると、タンクレーディは摂政の座を返上しましたが、1104年にボエモン1世が再び西欧へ遠征すると、再び摂政としてアンティオキア公国を統治しました。この間、エデッサ伯国の摂政も兼任しました。彼はアレッポのリドワーンと戦い、オロンテス川以東の領土を奪還。アンティオキア公国をシリア随一の強国へと押し上げました。

晩年と死

タンクレーディは、フランク人とムスリムが時と場合に応じて手を結ぶ状況の中で、巧みな外交手腕を発揮しました。シャイザルの戦いでは、敵からの贈り物を受け取りながらも、その後の約束を破ったというエピソードも残っています。

1108年、ボエモン1世が東ローマ帝国に臣従するデヴォル条約を締結しましたが、タンクレーディはこの条約を拒否し、アンティオキア公国の独立を維持しました。1110年には、クラック・デ・シュヴァリエを占領し、十字軍国家の重要な拠点としました。

1111年にボエモン1世が亡くなると、タンクレーディはボエモン2世の摂政を続けましたが、1112年に腸チフスの流行によりこの世を去りました。彼の死後、アンティオキア公国の摂政は、甥であるルッジェーロが引き継ぎました。

タンクレーディを題材とした作品

タンクレーディの生涯は、後世の芸術作品にも大きな影響を与えました。年代記作家・カンのラウルは、彼の伝記『ゲスタ・タンクレーディ』を著し、また、16世紀の詩人トルクァート・タッソの作品『解放されたエルサレム』には、英雄的な人物として描かれています。この叙事詩は、多くの楽曲や絵画の題材となり、クラウディオ・モンテヴェルディは『タンクレディとクロリンダの闘い』を作曲しました。

タンクレーディは、その武勇と政治力、そして複雑な人間性によって、後世に語り継がれる十字軍の英雄となったのです。

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