ダキア属州

ダキア属州：ローマ帝国の辺境、繁栄と苦難の歴史

ダキア属州（Provincia Dacia）は、106年にローマ帝国によって現在のルーマニアの一部、トランシルヴァニア地方南東部に設立された属州です。およそ170年間、ローマ帝国の支配下にありましたが、271年から275年にかけて放棄されました。人口は65万人から120万人と推定され、ダキア・トライアナやダキア・フェリクスとも呼ばれました。

ダキア属州の成立

2度にわたるダキア戦争（101年 - 106年）で、ローマ皇帝トラヤヌスがダキア王デケバルスに勝利し、ダキア王国を併合したことで、ダキア属州が誕生しました。ただし、旧ダキア王国の領土すべてが属州になったわけではなく、モルダヴィア地方やマラムレシュ地方などは、自由ダキア人の地域として帝国の外に残りました。

属州の分割と再編

119年、ダキア属州はダキア・スペリオル属州とダキア・インフェリオル属州に分割され、さらに124年にはダキア・スペリオル属州がダキア・アプレンシス属州とダキア・ポロリセンシス属州に分割されました。ダキア・インフェリオル属州はダキア・マルウェンシス属州とも呼ばれました。162年 - 180年のマルコマンニ戦争勃発後、これらの分割された属州の軍事・司法権限は統合され、三ダキア（Tres Daciæ）と呼ばれるようになりました。

属州の繁栄

ローマの支配下に入ったダキアでは、植民市建設、鉱山開発、農業、畜産、交易が発展しました。特に小麦は、駐屯軍の食糧としてだけでなく、バルカン半島各地へ供給されるほどでした。軍団駐屯地を起源とする都市も発展し、11から12か所の都市のうち、8か所が植民市の地位を得るほどでした。属州都はウルピア・トライアナ・サルミゼゲトゥサで、総督が着任しました。交通の要衝であるアプルムにはローマ軍団が駐屯していました。

属州の衰退と放棄

ダキア属州は成立直後から、自由ダキア人やサルマタイ人による外敵の侵入に悩まされました。マルクス・アウレリウス帝の時代には、自由ダキア人とサルマタイ人が同盟を結び、国境を脅かしました。コンモドゥス帝とカラカラ帝の時代には比較的平穏でしたが、その後の帝国混乱期には、カルピ人がゴート族と共に国境を侵すようになりました。248年から269年にかけては、ゲルマン人やゴート族、ヘルール族による度重なる侵入を受けました。外圧に耐えきれず、ローマ帝国は270年代にダキア属州を放棄しました。アウレリアヌス帝はダキアを放棄し、ドナウ川の南にダキア・アウレリアナ属州（新ダキア属州）を新設しました。

主要都市

属州内の主要都市は以下の通りです。

ウルピア・トライアナ・サルミゼゲトゥサ：属州都、コロニア（植民市）
アプルム：ムニキピウムからコロニアに昇格
ドロベタ：ムニキピウムからコロニアに昇格
ロムラ：ムニキピウムからコロニアに昇格
ナポカ：ムニキピウムからコロニアに昇格
ポタイッサ：ムニキピウムからコロニアに昇格
ポロリッスム：ムニキピウム
ディエルナ：ムニキピウム
ティビスクム
Zlatna
* スキダビア：ムニキピウムまたはコロニア

ダキア属州は、ローマ帝国の辺境として、繁栄と苦難の歴史を刻みました。その遺産は、現代のルーマニアにも息づいています。

もう一度検索