ダルダニア

ダルダニア：古代バルカン半島の歴史と文化

ダルダニア（古代ギリシア語: Δαρδανία; ラテン語: Dardania）は、現在のコソボ周辺にあたるバルカン半島中央部の古代地域名であり、かつてローマ帝国の属州が置かれていました。その歴史は、紀元前から始まり、ローマ帝国の支配下を経て、東ローマ帝国へと引き継がれました。

属州化以前

ダルダニアの先住民であるダルダニア人の起源については、イリュリア人説とトラキア人説が存在します。一説によれば、もともとこの地域に居住していたトラキア人が、イリュリア人との接触を通じて混在するようになったとも考えられています。紀元前279年にはケルト人が侵入し、紀元前179年にはバステルナエ族がダルダニア人を征服しましたが、紀元前174年にはダルダニア人がこれを追放し独立を維持しました。しかし、紀元前170年にはアンティゴノス朝マケドニアに敗れ、紀元前168年にはマケドニアとイリュリアがローマの保護国となりました。紀元前2世紀半ばには、ケルト系のスコルディスキがダルダニア人を支配下に置いたとされますが、その後しばらくダルダニア人に関する記録は途絶えます。彼らが再び歴史に登場するのは紀元前97年、ローマ軍に征服された時でした。当時のダルダニア人は、古代バルカン諸語の「中央ダルマティア型」に属する言語を話していたと考えられており、その後、早期にローマ化が進みました。

ローマ支配下の行政

ローマに征服された旧ダルダニア王国の領域は、モエシア属州の一部となりました。86年にはモエシアが上モエシア（モエシア・スペリオル）と下モエシア（モエシア・インフェリオル）に分割され、上モエシアの一部がダルダニアと呼ばれるようになりました。2世紀の地理学者クラウディオス・プトレマイオスは、ダルダニアを上モエシアの「特別な地域」と表現しています。ディオクレティアヌス帝の時代には、バルカン半島の大部分を管轄するモエシア管区が設置され、その中にダルダニア属州が置かれました。旧上モエシア属州は、ダルダニアとモエシア・プリマという2つの属州に分割されました。コンスタンティヌス1世の治世中には、ダルダニアとトラキアの一部からダキア・メディテラネア属州が設置されました。モエシア管区はたびたび分割・縮小されましたが、4世紀後半にはモエシア管区とダキア管区が統合され、イリュリクム道が設置され、ほぼ当初のモエシア管区と同じ範囲を覆うことになりました。

宗教と経済

3世紀までのバルカン半島におけるキリスト教の普及状況は不明な点が多いですが、325年の第1ニカイア公会議にはダルダニア出身の聖職者「マケドニアのダクス」が出席しています。経済面では、350年ごろに編纂されたExpositio totius mundiによると、ダルダニアはマケドニアにチーズやラードを供給していました。

都市

紀元前1世紀のダルダニア戦争（紀元前75年-73年）の際、ローマ軍はナイッソス（現ニシュ）を占領し、軍団所在地としました。この都市は、トラキア人の地域のすぐ北を押さえる戦略的重要性から、上モエシアにおける重要な軍事拠点および市場として発展しました。また、ローマ人は鉱山都市ムニキピウム・ダルダニクムを建設しました。ローマ時代のダルダニアの主要都市は、スクピ（スコピエ）、ナイスス（ニシュ）、ウルピアーナ（リプリャン）でした。上モエシア時代のダルダニアには、これらの都市のほかに、テランダ（プリズレン）、ウィキアヌム、ウィンデニス、ウェラニス、ダルダパラ、クェメダウァ、ダマスティオンといった都市が存在しました。

その後

5世紀、ローマ帝国が東西に分裂した後、ダルダニアは東ローマ帝国の支配下に入りました。プロコピオス（500年–560年）は、バルカン半島の地理を説明する際に、かつてのローマ帝国の属州区画を使用したため、彼の著作にはダルダニアの名が残っています。ユスティニアヌス1世の時代には、ダルダニアで多くの要塞が新設・再建されましたが、518年の地震とそれに続く飢饉により、人口が激減し、防衛力が低下しました。6世紀には、ダルダニアを含むバルカン半島は、スラヴ人の侵入に晒されることとなりました。

ダルダニアの歴史は、多様な民族と文化が交錯し、興亡を繰り返したバルカン半島の縮図とも言えるでしょう。

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