ダークツーリズム

ダークツーリズムとは

ダークツーリズムとは、災害、戦争、虐殺などの悲劇的な出来事があった場所を訪れる観光の一形態です。これらの場所は、しばしば「負の遺産」と呼ばれ、人間の死や苦しみを想起させます。ダークツーリズムは、単なる観光ではなく、歴史を学び、過去の過ちから教訓を得ることを目的としています。また、これらの場所を保存し、後世に伝えるという重要な役割も担っています。

ダークツーリズムの定義

ダークツーリズムは、英語では「Dark Tourism」と表記され、「ブラックツーリズム（Black tourism）」や「悲しみのツーリズム（Grief tourism）」とも呼ばれます。これらの用語は、人間の死や悲しみを対象とした観光を指すという点で共通しています。

似た概念として「タナツーリズム（Thanatourism）」がありますが、これは古代ギリシア語で死を意味する「タナトス」に由来し、より暴力的な死を強調する際に用いられます。タナツーリズムは、人権問題に関わる施設も対象とするため、ダークツーリズムよりも限定的な意味合いで使用されます。

ダークツーリズムの目的

ダークツーリズムの主な目的は、以下の二つです。

保全目的: 歴史的な悲劇の場所を保存し、後世に伝えること。
学習目的: 実際に場所を訪れることで、悲劇の状況を追体験し、歴史から学ぶこと。

一般的な観光は娯楽を目的としますが、ダークツーリズムは学びの手段として捉えられます。慰霊や慰撫といった日本人の特殊な性質も、ダークツーリズムが日本で受け入れられる要因の一つです。

ダークツーリズムの歴史

ダークツーリズムの概念は、1996年にジョン・レノンとマルコム・フォーリーによって提唱されました。日本では、2008年にフンク・カロリンが紹介したことをきっかけに、井出明らによって研究が進められています。

提唱以前から、アンネ・フランクの隠れ家など、悲劇の場所を訪れることは広く行われていました。ヨーロッパでは、キリスト教的な死生観や、石造りの建造物が多いこと、ホロコースト否認への対抗などから、ダークツーリズムがより浸透しています。

ダークツーリズムへの批判と留意点

ダークツーリズムは、その性質上、批判的な視点や留意すべき点も多く存在します。

商業化: 関連施設周辺が観光スポット化し、被害者や遺族の悲しみをビジネスに利用しているという批判があります。
政治的偏向: 併設される資料館などで、中立性を欠いた政治的に偏った展示が行われることがあります。
倫理観の欠如: 訪問者の無理解や倫理観の欠如により、当事者に心無い言葉が投げかけられることがあります。

特に、被災地においては、地域社会や被災者の復興を考慮し、「まなざしをめぐる軋轢」や「観光利益の帰属先を巡る軋轢」を避けるための合意形成が不可欠です。

ダークツーリズムのスポット例

ダークツーリズムの対象となる場所は多岐にわたります。以下にいくつかの例を挙げます。

戦争・虐殺関連

日本国内:
平戸市切支丹資料館・乙女峠マリア聖堂 (禁教令)
知覧特攻平和会館 (神風特別攻撃隊)
広島平和記念公園 (原爆)
日本国外:
アンネ・フランクの家 (ホロコースト)
アウシュヴィッツ＝ビルケナウ強制収容所 (ホロコースト)
キリング・フィールド (カンボジア大虐殺)

災害関連

日本国内:
三宅島 (火山噴火)
日本国外:
アチェ津波博物館 (スマトラ島沖地震)

刑務所

日本国内:
博物館網走監獄
日本国外:
アルカトラズ島
ロベン島 (アパルトヘイト)

人権侵害・事故関連

日本国内:
三毛別羆事件復元地
御巣鷹の尾根 (日本航空123便墜落事故)
ハンセン病療養所
日本国外:
プリピャチ (チェルノブイリ原子力発電所事故)
* グラウンド・ゼロ (アメリカ同時多発テロ事件)

まとめ

ダークツーリズムは、過去の悲劇を忘れないための重要な活動です。しかし、その一方で、商業化や倫理観の欠如といった問題点も抱えています。ダークツーリズムを行う際には、場所の歴史的背景を理解し、訪問先の文化や感情に配慮することが不可欠です。また、観光によって得られた利益が、地域社会や被害者の復興に貢献するよう努めるべきでしょう。

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