ティンダロスの猟犬

ティンダロスの猟犬：クトゥルフ神話を彩る異次元からの捕食者

1929年、フランク・ベルナップ・ロングによって創作されたクトゥルフ神話の怪物のひとつ、「ティンダロスの猟犬」。その異様な姿と能力、そしてクトゥルフ神話への多大な影響は、多くの読者や作家を魅了し続けています。この記事では、ティンダロスの猟犬の初出作品である『ウィアード・テイルズ』誌掲載の小説を中心に、その生態、クトゥルフ神話における位置づけ、そして様々な作家による解釈の追加設定などを詳細に解説します。

作品の概要とあらすじ

ロングの小説では、オカルト作家のハルピン・チャーマズが、時間旅行を目的として幻覚剤を服用します。その結果、彼は太古の昔、生命が生まれる以前の世界へと意識が遡ります。そこで待ち受けていたのは、恐るべき存在「ティンダロスの猟犬」でした。猟犬は鋭角を通って出現し、チャーマズを執拗に追跡します。彼は猟犬から逃れるため、部屋の角を石膏で塗り固めるという奇行に出ます。しかし、その後の地震で石膏が剥がれ、再び鋭角が露出。その後、チャーマズは殺害されます。彼の死体からは、生命活動に必要な酵素を持たない謎の青い粘液が発見され、猟犬の恐ろしさを改めて示すこととなります。

ティンダロスの猟犬：その奇怪な生態

ティンダロスの猟犬は、時間や次元を超えて獲物を追跡する異次元の存在です。その姿は犬とは似て非なるもので、青黒い煙のような姿で出現し、悪臭を放ちます。最も特徴的なのは、120度以下の鋭角を通ってこの世界に出現するという性質です。そのため、鋭角を避け、曲線のみで構成された空間を作ることで、その襲来を阻止できると言われています。彼らの容姿は、太く曲がりくねった針のような舌や、酵素を持たない青みがかった脳漿のような物質を特徴としています。 また、ロングは、猟犬を「不浄」の存在として描いています。これは、ラヴクラフト神話の善悪の二元論とは異なる、独自の概念です。

クトゥルフ神話への影響と様々な解釈

ロングが創造したティンダロスの猟犬は、後にラヴクラフトによってクトゥルフ神話に取り入れられました。ラヴクラフトは直接的に猟犬を描写したわけではありませんが、間接的に言及し、アザトースとの関連性を示唆しています。その後の作家たちも、猟犬の設定を様々な形で解釈し、独自の追加設定を加えています。例えば、リン・カーターは猟犬をアザトースの従者と位置づけ、また、他の作家は猟犬の起源や、人間との交配、さらには猟犬の王の存在などを創作しています。 エリザベス・ベアは人間社会で生きる猟犬を描写し、ブライアン・ラムレイは翼を持つ猟犬や時間界を彷徨う彼らの宮殿を描いています。このように、ティンダロスの猟犬は、多くの作家によって再解釈され、クトゥルフ神話の重要な要素として発展してきました。TRPGにおいては、強力な「王」や、時空と曲面を司るヨグ＝ソトースとの対立などが設定されています。

初期設定と追加設定の多様性

ロング自身の初期設定においては、ティンダロスの猟犬は「不浄」の体現であり、清浄と不浄はそれぞれ曲面と角度から現れるとされました。この概念は、後のダーレス神話の旧神対旧支配者の構図とは異なるもので、ロング独自の哲学が反映されていると言えるでしょう。 しかし、後世の作家たちは、この猟犬の起源や能力、さらには人間との関わりなどを様々な形で再解釈し、新たな設定を追加しています。 例えば、猟犬の父母、人間との混血、猟犬の王の存在などは、それらの例と言えるでしょう。これらの追加設定は、ティンダロスの猟犬という存在に、より深みと多様性を与えています。

まとめ

ティンダロスの猟犬は、その奇怪な生態と、クトゥルフ神話への多大な影響によって、多くの読者や作家を魅了し続けている、まさにクトゥルフ神話における象徴的な存在です。 この解説記事が、読者の皆様のティンダロスの猟犬への理解を深める一助となれば幸いです。 また、様々な作家による解釈の多様性は、クトゥルフ神話の持つ柔軟性と広がりを改めて示していると言えるでしょう。

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