ムラービト朝

ムラービト朝（ المرابطون ）

ムラービト朝は、11世紀に現在のモロッコを中心に、北アフリカ西部からイベリア半島南部にかけての一帯を支配したベルベル人のイスラム王朝です。英語ではアルモラヴィド朝（Almoravid dynasty）とも呼ばれます。

ムラービトゥーンの興起

1039年、サンハージャ族の族長ヤフヤー・イブン・イブラーヒームがメッカ巡礼からの帰路、カイラワーンで出会った神学者イブン・ヤーシーンの教説に共鳴します。彼はスンナ派の教義を広めるため、故郷に戻り、現在のモーリタニアのセネガル川の島にラバート（城塞）を築き、厳しい修道生活を送りました。この「ラバートに拠る人々」がムラービトゥーン（ المرابطون ）と呼ばれるようになり、王朝の起源となりました。

ムラービトゥーンは、修道生活と並行して、武術の訓練にも励みました。これは、キリスト教の騎士修道会にも似た側面を持ちます。1053年から1054年にかけて、サハラ交易の要衝であるシジルマーサを確保し、勢力を拡大しました。宗教指導者イブン・ヤーシーンと世俗指導者ヤフヤー・イブン・ウマルの下、「アッラーへの帰一とスンナ派帰属」の教理を広め、モロッコの宗教的刷新を図りました。

しかし、内部対立も存在し、1056年にはヤフヤー・イブン・ウマル、1058年にはイブン・ヤーシーンが暗殺されました。ヤフヤー・イブン・ウマルの死後、弟のアブー・バクル・イブン・ウマルが指導者となり、1056年がムラービト朝の成立年とされています。

モロッコ制圧とガーナ王国の征服

ムラービト朝は、モロッコ南部のタルーダントを陥落させ、大西洋沿岸部を北上し、サフィーなどの港湾都市を手に入れました。フェズを中心とするベルルアータ地方も服属させ、アブー・バクルはモロッコ全土の攻略をユースフ・イブン・ターシュフィーンに委ね、自らは南方のガーナ王国征服に専念します。1076年にはガーナ王国の首都クンビ＝サレーを陥落させ、支配下に置きました。

ムラービト朝の全盛期とアンダルシア情勢

ユースフ・イブン・ターシュフィーンは有能な君主であり、マラケシュを整備し、モスク建設や灌漑路の開発を行いました。1069年にはフェズを占領し、都市を一体化させ、防備を強化しました。

1031年の後ウマイヤ朝崩壊後、イベリア半島のイスラム勢力はタイファに分裂し、キリスト教国に圧迫されていました。1086年、セビリャのムータミドの救援要請に応じ、ユースフはイベリア半島に出兵し、サラカの戦いでカスティーリャ王アルフォンソ6世を破りました。しかし、イスラム諸侯国の内紛が絶えなかったため、1090年に再び救援要請を受けたユースフは、アンダルシアのイスラム諸侯国を支配下に置くことを決意します。1091年にはコルドバとセビリャを占領し、1102年にはバレンシアを確保しました。1106年にユースフが亡くなった後も、1110年にサラゴサを占領するなど、その勢力を維持しました。

ムラービト朝の衰退と滅亡

ユースフの後を継いだアリー・イブン・ユースフは、父のような指導力を持たず、法学者に利用され、政治への関与を避けました。1118年にはアラゴン王国にサラゴサを奪われ、カスティーリャのアルフォンソ7世の侵攻も受け、後退を余儀なくされました。

アンダルシアのイスラム教徒住民は、ムラービト軍の暴行や文化への無理解に不満を募らせ、反ムラービト運動が起こりました。モロッコ国内でもムワッヒド運動が台頭し、アンダルシアのイスラム諸侯国はムワッヒド勢力と通じるようになりました。ターシュフィーン・イブン・アリー、イスハークの時代には首都マラケシュが陥落し、1147年、ムラービト朝はムワッヒド朝によって滅ぼされました。

文化

ムラービト朝は、リバートと呼ばれる修道場・宗教施設を拠点とする宗教運動によって興りました。マーリク派法学が公認の学問として隆盛し、カーディー・イヤードやイブン・ルシュド・ジャッドなどの学者が輩出されました。一方で、ガザーリーの思弁哲学は異端として弾圧されました。

ムラービト朝の君主たちは、アッバース朝の権威を認めつつ、「アミール・アル＝ムスリミーン（ムスリムたちの長）」という称号を用いていました。

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