デジタルコンパクトカセット

デジタルコンパクトカセット（DCC）とは



デジタルコンパクトカセット（DCC）は、1991年にフィリップスと松下電器産業（現パナソニック）が共同で発表したデジタルオーディオ規格です。アナログコンパクトカセット（カセットテープ）と同サイズのテープを使用し、PASC（Precision Adaptive Subband Coding）と呼ばれる圧縮方式でデジタルデータを記録します。

DCCの技術



  • - 圧縮方式: PASC（MPEG-1/2 Audio Layer-1）を採用し、CD音源を約1/4の容量に圧縮します。
  • - サンプリング[[周波数]]: 48kHz、44.1kHz、32kHzに対応。
  • - デジタルコピー: SCMS方式を採用。
  • - 固定ヘッド方式: DATの回転ヘッド方式とは異なり、固定ヘッドを使用。S-DATという規格がありましたが、DCCはそれとは別の規格です。圧縮音声と簡略化されたヘッドが特徴です。
  • - 音質: 低ビットレート時は無圧縮記録。人間の聴覚特性に合わせたチューニングで高音質を実現。

DCCの開発と製造



DCCの基本技術はフィリップスの基礎研究所で開発されました。製品化はフィリップス、松下電器、日本マランツの3社が担当。

  • - キーデバイス: 薄膜ヘッドなどの主要部品は主に松下電器が供給。
  • - 製品製造: 完成品の製造は主に日本マランツが担当。
  • - 薄膜ヘッド: フィリップスの技術を基に、松下電器が量産化。
  • - IC開発: 松下電器が担当。

DCCの特徴



  • - カセットハーフ: コンパクトカセットと同一サイズ。厚みはDCCが0.9mm厚い。
  • - テープ速度: コンパクトカセットと同じ0.0476m/s。
  • - オートリバース: ハブ穴は片面のみ。カセットハーフ片面はフラット。
  • - シャッター: テープ保護のため、金属製シャッターで覆われています。デッキにセット時のみ自動開閉。
  • - 識別穴: カセットハーフの穴でDCCかコンパクトカセットかを識別。
  • - 文字情報: ブランクテープに文字情報を記録可能。曲名、アーティスト名など。
  • - トラック: オーディオ信号用8トラック、コントロール信号用1トラックの計9トラック。
  • - ヘッド構造: 上半分がDCC用、下半分がコンパクトカセット用。A面、B面でヘッドが反転。
  • - オーバーライト: 消去ヘッド不要。上書き録音が可能。
  • - 再生ヘッド: 録音ヘッドより細く、多少の蛇行にも対応。
  • - MR素子ヘッド: 薄膜技術で製造。高域特性に優れ、低音再生も可能。

テープについて



  • - 互換性: コンパクトカセットの再生に対応。
  • - テープ: フィリップスはBASFに開発を依頼し、二酸化クロムを採用。松下電器は自社でコバルト被着酸化鉄系磁性体のテープを生産していた可能性があります。
  • - 磁性粉: S-VHS並の超微粒子を使用。パナソニックのZETAS磁性体やBASFの二酸化クロムは、どちらもサブミクロンの領域。
  • - 製造会社: パナソニック、TDK、マクセル、富士フイルム、ビクターなど。

DCCソフト



  • - 発売会社: ビクター、MCAビクター、テイチク、ポリグラムなどが中心。
  • - タイトル数: MDソフトに比べ、タイトル数が圧倒的に少なかった。
  • - 他陣営: ソニーミュージックやポニーキャニオンなどはDCCソフトを供給せず。

DCCの主な機種



  • - パナソニック: RS-DC10、RS-DC8、RS-DCM1、RX-DD1、RX-DD2、RQ-DP7、RQ-DR9、SC-CH505D、CQ-DC1D
  • - フィリップス: DCC900、DCC600、DCC130、DCC134、DCC170、DCC175、DCC730、DCC951
  • - 日本マランツ: DD-92、DD-82
  • - 日本ビクター: ZD-V919、ZD-1

共存戦略



DCCとMDは同時期に開発され、両陣営は共存を模索しました。共同ライセンスにより、どちらが普及しても3社が損失を被らないようにしました。結果として、市場がMDを選んだためDCCは終焉を迎えました。

規格争いと終焉



  • - 発売: 1992年9月にパナソニックRS-DC10とフィリップスDCC900が発売。
  • - MD登場: 1992年11月にソニーがポータブルMDレコーダーMZ-1を発売。
  • - 価格競争力: DCCは価格、大きさの両面でMDに劣っていました。
  • - 使い勝手: ランダムアクセスができず、アクセス時間が長い。早送り・巻き戻し時にサーチ不可。
  • - 互換性: コンパクトカセットの録音不可。テープの磨耗や埃によるエラー発生。
  • - テープ価格: DCCテープの低価格化が進まず、DATよりも割高。
  • - ヘッド: MR素子ヘッドのクリーニングに制限があった。
  • - ポータブル機: ポータブル機の発売が遅れ、MDに大きく差をつけられました。
  • - 生産終了: 1996年末までに全ての参入メーカーが生産を終了。1997年には松下電器もMDに参入。

まとめ



DCCは、アナログカセットの利便性を保ちつつ高音質を目指した規格でしたが、MDとの競争に敗れ、短命に終わりました。その技術は評価されるべき点も多くありましたが、市場のニーズに応えられなかったことがその原因です。

脚注



音響機器
DAT'>DAT
磁気テープ'>磁気テープ
ハイポジション（クロムポジション）
RESTY
MP3'>MP1・MP2・MP3
規格争い

外部リンク



幻のdcc（デジタル・コンパクト・カセット） - archive.today
日本DCC保存会本部 - ウェイバックマシン

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