デュアランド・ライン

デュアランド・ラインとは

デュアランド・ラインは、パキスタンとアフガニスタンの間、およそ2,640kmに及ぶ国境線です。この国境線は、1893年にイギリス領インド帝国の外相モーティマー・デュアランドとアフガニスタンのアブドゥッラフマーン・ハーン王の間で締結されたデュアランド・ライン条約によって定められました。当時、この地域は大英帝国とロシア帝国の勢力争い（グレート・ゲーム）の緩衝地帯であり、この条約によって両国の利権範囲が明確化されました。現代では、パキスタンのカイバル・パクトゥンクワ州とバローチスターン州、そしてアフガニスタンの国境となっています。

歴史的背景

この地域は古くからパシュトゥーン人が生活しており、7世紀にはアラブ人の侵攻によってイスラム教がもたらされました。その後、ガズナ朝、ゴール朝、ティムール朝、ムガル帝国、ドゥッラーニー朝と支配者が次々と入れ替わりました。19世紀には、イギリス領インド帝国がこの地域に進出し、第一次アフガン戦争（1839年）と第二次アフガン戦争（1878年）でアフガニスタンと戦いました。これらの戦争でイギリス軍は苦戦を強いられ、その結果、1893年にデュアランド・ライン条約が締結されました。

この条約によって、イギリス領インド帝国は現在のパキスタンの一部であるカイバル・パクトゥンクワ州や連邦直轄部族地域などをアフガニスタンから獲得しました。しかし、この条約は英語版のみで作成され、アフガニスタンのアブドゥッラフマーン・ハーン王は英語が読めなかったという事実があります。

デュアランド・ラインを巡る問題

パキスタンは1947年のインドからの独立以降、デュアランド・ラインを継承しましたが、アフガニスタンとの国境線に関する公式な合意は現在も存在しません。アフガニスタン側は、1949年にデュアランド・ラインの無効を一方的に宣言しています。その理由としては、パシュトゥーン人の居住地域が国境線によって分断されていることが挙げられます。パキスタン側は、国際法に基づき、独立前に存在した国境線を継承しているという立場を取っています。

デュアランド・ラインは、パキスタンとアフガニスタンの二国間関係における緊張要因となっています。パシュトゥーン人の議員たちは、この国境線の廃止を求めて活動しています。また、パキスタン軍は、長年にわたりアフガニスタン側に軍事拠点を設けており、両国間の武力衝突が絶えません。

さらに、2000年代に入ると、アメリカ軍やNATO軍がアフガニスタン側に展開し、パキスタン勢力との戦闘が激化しました。アメリカ軍とNATO軍が撤退した後は、タリバンがアフガニスタンで権力を掌握し、タリバンを長年支援してきたパキスタンとの間で衝突が発生しています。

現在、デュアランド・ライン周辺は世界で最も危険な地域の一つとなっており、テロ組織の活動が活発化しています。この地域の不安定化は、国際社会にとっても大きな懸念材料となっています。

まとめ

デュアランド・ラインは、歴史的な経緯と複雑な民族問題を抱え、現代まで続く紛争の火種となっています。パキスタンとアフガニスタンの両国だけでなく、国際社会もこの問題に注目し、安定化に向けた取り組みが求められています。

脚注

グレート・ゲーム：19世紀から20世紀初頭にかけて、中央アジアにおけるイギリスとロシアの勢力争い。
アフガニスタン紛争 (2001年-2021年)：アメリカ合衆国主導の多国籍軍がアフガニスタンに介入した戦争。
ワジリスタン紛争：パキスタンの連邦直轄部族地域ワジリスタンを舞台とした紛争。

外部リンク

参考資料1
* 参考資料2

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