デルタ II

デルタIIロケット：アメリカの宇宙開発を支えた名機

デルタIIは、アメリカ合衆国で開発・運用された使い捨て型の人工衛星打ち上げロケットです。1989年から2018年まで、その長い運用期間中に数多くのミッションを成功させ、アメリカの宇宙開発に大きく貢献しました。

開発と製造の歴史

デルタIIロケットの開発と初期の製造は、[マクドネル・ダグラス]]社が担当しました。その後、ボーイング・インテグレイテッド・ディフェンス・システムズを経て、2006年からはユナイテッド・ローンチ・アライアンス]が製造を引き継ぎました。運用末期には、ULAがアメリカ政府向けの製造を、[[ボーイング・ローンチ・サービシーズ(BLS)が民生・商業用途の製造をそれぞれ担当していました。

デルタIIは、デルタロケットシリーズの一員として、デルタ6000シリーズとデルタ7000シリーズ、そしてその派生型であるデルタ7000（ライトおよびヘビー）が存在します。

スペースシャトル計画からの復活

アメリカの使い捨てロケットは、スペースシャトルの登場によって一度は廃止されました。しかし、1986年のチャレンジャー号爆発事故をきっかけに、デルタロケットを含む使い捨てロケットの開発が再開されることとなりました。

デルタIIは、GPSブロックIIシリーズの衛星打ち上げに最適化された設計でしたが、それ以外の様々なミッションにも使用され、数多くの宇宙探査機を宇宙へと送り出しました。特に、NASAの火星探査ミッションでは重要な役割を果たしました。

火星探査機打ち上げの立役者

デルタIIは、以下の火星探査機の打ち上げに貢献しました。

マーズ・グローバル・サーベイヤー (1996年)
マーズ・パスファインダー (1996年)
マーズ・クライメイト・オービター (1998年)
マーズ・ポーラー・ランダー (1999年)
2001マーズ・オデッセイ (2001年)
マーズ・エクスプロレーション・ローバー (スピリットとオポチュニティ) (2003年)
マーズ・フェニックス着陸機 (2007年)

デルタIIの構造

デルタIIは使い捨てロケットであり、以下のような構成要素で成り立っています。

1. 1段目: ロケットダインRS-27液体燃料ロケットエンジンを1基搭載し、推進剤にはRP-1と液体酸素を使用します。
2. 固体燃料補助ロケット: 離床初期の推力増強に用いられ、中重量以上の打ち上げ構成では9基（地上点火6基、飛行中点火3基）、軽重量機種では3基または4基使用されます。
3. 中間段: 1段目と2段目の間にあるスペーサーで、1999年からは摩擦攪拌接合法で製造されています。
4. 2段目: 自己着火性推進剤である四酸化二窒素とエアロジン-50を使用し、エアロジェット製のAJ10-118Kロケットエンジンを搭載しています。低軌道投入のために1回または数回燃焼します。推進剤の腐食性が高いため、注入後37日以内の打ち上げが必要です。慣性誘導装置もこの段に搭載されています。
5. 3段目: 火星などの他天体を目指す場合、オプションとしてATK-チオコール製の固体燃料ロケットモーターが使用されます。通常構成では2段式で運用され、地球周回軌道への衛星投入に用いられます。3段目は能動的な誘導制御機構を持たず、スピン安定のみを用います。
6. ペイロード・フェアリング: 打ち上げ時に宇宙機を大気から保護する薄い金属または複合材製のカバーです。

デルタIIの命名規則

デルタIIシリーズは、4桁の数字で仕様を表記します。

1桁目: 6または7で、6000シリーズまたは7000シリーズを示します。7000シリーズはRS-27AエンジンとGEMを備えています。
2桁目: 固体燃料ロケットの数を示します（通常は9基）。
3桁目: 2段目にAJ10エンジンを使用する場合は2。
4桁目: 3段目を示し、0の場合は3段目なし、5の場合はStar 48B固体燃料モーター、6の場合はStar 37FMモーターを使用します。

例えば、デルタ7925は9基のGEM補助ロケットと3段目にPAMを備えています。デルタ7320は2段式で3基の補助ロケットを備えています。

デルタIIヘビー

デルタIIヘビーは、大型のGEM-46補助ロケットを備え、79xxHと表記されます。元々はデルタIIIとして設計されました。

ペイロードフェアリング

3種類のペイロードフェアリングが使用可能で、基本型は直径9.5フィートのアルミ製、10フィートのフェアリングは複合材製です。

打ち上げと信頼性

デルタIIロケットは、発射台上で垂直に組み立てられ、1段目から順に組み立てられます。1段目への燃料注入には約20分かかります。

デルタIIシステムは、合計153回使用され、2007年9月までに75回連続で打ち上げに成功するという記録を打ち立てました。これは近代的なロケットの中でも特筆すべき信頼性です。

ただし、いくつかの失敗例も存在します。Koreasat-1の打ち上げでは、ロケットが衛星を予定外の軌道に投入してしまいましたが、衛星側のエンジンで軌道修正に成功しました。また、1997年にはGPS衛星の打ち上げ時に、補助ロケットの不具合により爆発事故が発生しました。

イリジウム衛星打ち上げ

1997年から1998年にかけて、デルタIIは55機のイリジウム衛星を軌道に投入しました。これはデルタIIの重要なミッションの一つです。

退役までの道筋

2007年、アメリカ空軍がデルタIIロケットの使用を継続しない可能性が指摘され、関係者の間で懸念の声が上がりました。2008年には、ULAがデルタIIの打ち上げ終了後も売れ残りの機体を抱えることになるだろうと推測されました。

2009年には、NASAが打ち上げ計画にデルタIIロケットを追加する可能性を検討しました。その後、2011年には月探査機GRAIL、地球観測衛星スオミNPPの打ち上げが行われ、在庫は5機となりました。最終的に、これらの機体はNASAのSMAP、OCO-2、JPSS-1、ICESat-2の打ち上げに利用されました。

2018年9月15日、最後の打ち上げとなるICESat-2の打ち上げをもって、デルタIIの運用は終了しました。

同規模のロケット

デルタIIと同規模のロケットには、以下のようなものがあります。

アリアン4（退役）
ファルコン9
GSLV
ソユーズU
アンタレス (デルタIIの一時的な引退によって生じた空白を埋める為に開発が始まりました。)

デルタIIは、長年にわたりアメリカの宇宙開発を支えた重要なロケットであり、その功績は後世に語り継がれるでしょう。

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