デ・ハビランド DH.91 アルバトロス

デ・ハビランド DH.91 アルバトロス：短命に終わった英国の高速旅客機

デ・ハビランド DH.91 アルバトロスは、イギリスの航空機メーカー、デ・ハビランド社が1938年から1939年にかけて7機のみ製造した4発レシプロ旅客機です。その美しい流線型のデザインと、当時としては先進的な構造が特徴でした。

開発の背景

1930年代、航空技術は急速な進歩を遂げ、大西洋を横断する長距離郵便飛行の需要が高まっていました。英国航空省は、この需要に応えるべく、1936年に仕様36/35を提示。これに応募したのが、デ・ハビランド社のA.E.ヘッグが設計したDH.91 アルバトロスでした。

1937年5月20日、試作機が初飛行に成功。しかし、2号機はテスト飛行中に事故で破損し、修理を余儀なくされました。その後、1号機と共にインペリアル・エアウェイズに引き渡され、運用試験が行われました。当初の計画では、22名の乗客を収容できる旅客機として量産される予定でしたが、第二次世界大戦の勃発により、その運命は大きく変わることになります。

戦時下の徴用

第二次世界大戦が始まると、DH.91 アルバトロスはイギリス空軍の連絡機として徴用されました。当初7機製造された機体は、全てが軍用機として運用されることになり、そのうち5機が戦争によって失われました。残った2機も1943年9月には廃棄処分となり、その短い生涯を終えることとなりました。

各機体の記録

DH.91 アルバトロスの各機体には、それぞれ名前が付けられ、その生涯を記録に残しています。

ファラデー（Faraday）
郵便機型として1939年8月にインペリアル・エアウェイズに納入され、登録記号G-AEVVが与えられました。後にBOACに移管されましたが、イギリス空軍に徴用され、シリアル番号AX903を与えられ、第271飛行隊で運用されました。1941年8月11日、レイキャヴィクで着陸事故を起こし、廃棄されました。

フランクリン（Franklin）
郵便機型としてBOACに納入され、登録記号G-AEVWが付与されました。こちらもイギリス空軍に徴用され、シリアル番号AX904を与えられ、第271飛行隊で運用されましたが、1942年4月7日にレイキャヴィクで着陸時に降着装置が折れて破壊されました。

フロビシャー（Frobisher）
旅客機型として1938年にインペリアル・エアウェイズに納入され、登録記号G-AFDIが与えられました。1940年12月20日、ウィットチャーチ空港へのドイツ軍の攻撃により、地上で破壊されました。

ファルコン（Falcon）
旅客機型として1938年にインペリアル・エアウェイズ（後にBOAC）に納入され、登録記号G-AFDJが与えられました。1943年9月に廃棄されました。

フォーテュナ（Fortuna）
旅客機型として1939年にインペリアル・エアウェイズ（後にBOAC）に納入され、登録記号G-AFDKが与えられました。1943年7月6日、アイルランドのシャノン空港近辺に不時着し、破壊されました。

フィンガル（Fingal）
旅客機型として1939年にインペリアル・エアウェイズ（後にBOAC）に納入され、登録記号G-AFDLが与えられました。1940年10月6日、イングランドのグロスタシャー、パックルチャーチ近辺に不時着し、破壊されました。

フィオナ（Fiona）
旅客機型として1939年にインペリアル・エアウェイズ（後にBOAC）に納入され、登録記号G-AFDMが与えられました。1943年9月に廃棄されました。

運用者

DH.91 アルバトロスは、以下の組織によって運用されました。

英国海外航空 (BOAC)
インペリアル・エアウェイズ
イギリス空軍　No. 271 Squadron RAF

機体性能 (DH.91)

DH.91 アルバトロスは、当時としては高い性能を誇っていました。

乗員：4名（機長、副操縦士、通信士、客室乗務員）
乗客：22名
全長：21.8m
全幅：32.0m
高さ：6.8m
翼面積：100.15㎡
空虚重量：9,630kg
全備重量：13,380kg
エンジン：デ・ハビランド ジプシー・トゥエルブ 空冷レシプロ12気筒エンジン4発
馬力：525hp（7,500ft）
最大速度：362km/h
巡航速度：338km/h
航続距離：1,675km
最大限界上昇高度：17,900ft（5,455m）
上昇率：700ft/min
翼面荷重：3.5m/s

まとめ

デ・ハビランド DH.91 アルバトロスは、その美しい外観と高い性能にも関わらず、第二次世界大戦という時代の波に翻弄され、短命に終わりました。しかし、その革新的な設計思想と、航空史におけるその存在は、今もなお語り継がれています。戦時下、旅客機としての役割を果たすことはありませんでしたが、その美しい機体は、人々の記憶に深く刻まれています。

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