トクトア・ブハ

トクトア・ブハ：北元ハーン、激動の生涯

トクトア・ブハ（1422年 - 1452年）は、北元（モンゴル帝国）の第13代ハーンとして、1433年から1452年まで在位しました。漢文史料では脱脱不花と表記されます。彼の生涯は、北元が衰退に向かう時代の複雑な政治情勢を色濃く反映しています。

生い立ちと即位

トクトア・ブハは、モンゴル再統一の祖であるダヤン・ハーンの曾祖父アクバルジの兄にあたり、北元皇族の正統な血筋を引いていました。出自は明確ではありませんが、クビライの子孫を自称していた記録も残っています。

即位前は、オルク・テムル・ハーンに仕えていましたが、オルク・テムルの死後、明に投降し、甘粛辺境に居住しました。その後、オイラト部族の指導者トゴンによってモンゴル高原に呼び戻され、1433年にハーンに即位しました。これは、チンギス統原理を重んじるモンゴルの伝統によるもので、トゴン自身がハーンになることは許されなかったためです。

オイラトとの関係

即位後、トクトア・ブハはオイラトの傀儡君主としての立場を強いられました。トゴンは丞相（チンサン）として実権を握り、トクトア・ブハは名目的な存在に過ぎませんでした。トクトア・ブハはオイラトの力を借りて、敵対勢力の討伐に成功しましたが、同時にオイラトへの依存を深めていきました。

トゴンの死後、その子であるエセンがオイラトの指導者となり、トクトア・ブハとの関係はさらに悪化します。エセンは、トクトア・ブハが明と結託してオイラトを滅ぼそうとしていると疑い、両者の対立は深まっていきました。

明との関係

トクトア・ブハは、明の朝廷に朝貢を行い、明からは「達達可汗（タタル・ハーン）」の称号を与えられました。1449年の土木の変に先立つ明への侵入では、ウリヤンハイ三衛を率いて遼東を攻撃するなど、明との間にも複雑な関係を築いていました。

最期

太子（後継者）の擁立を巡って、トクトア・ブハとエセンの間に対立が決定的なものとなります。トクトア・ブハは、エセンの姉との間に生まれた子ではなく、別の妃との子を太子に指名しようとしたため、エセンの不満を買いました。ついにトクトア・ブハは、ハラチン部からの援軍を得てエセンを攻撃しますが、敗北し、ウリヤンハイ三衛に逃れる途中で殺害されました。

トクトア・ブハの死後、北元の皇族はオイラトの血を引く者を除いて虐殺され、北元の衰退は加速しました。

家族

アルタガルジン・ハトン（ゴルラト部、離婚）
モーラン・ハーン
小ハトン・サムル太后（チョロス部、エセン・タイシの姉）
マルコルギス・ハーン

トクトア・ブハの生涯は、北元が衰退していく過程における、権力闘争と政治的陰謀に彩られたものでした。彼の治世は、北元史における重要な転換点として、記憶されています。

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