トマス・オブ・ランカスター

トマス・オブ・ランカスター：百年戦争を駆け抜けた王弟の生涯

トマス・オブ・ランカスター（1388年9月29日-1421年3月22日）は、ランカスター朝のイングランド王族として、激動の時代を生きた人物です。ヘンリー4世とメアリー・ド・ブーンの次男であり、後のヘンリー5世の弟にあたります。ベッドフォード公ジョン、グロスター公ハンフリーといった著名な兄弟と共に、王族としての道を歩みました。

1411年、トマスはケント伯トマス・ホランドの娘、マーガレット・ホランドと結婚します。マーガレットは、トマスの叔父である初代サマセット伯ジョン・ボーフォートの未亡人でした。しかし、この結婚には子供が生まれず、二人の関係は子孫を残すことはありませんでした。翌1412年には、クラレンス公の称号を授かり、王族としての地位をさらに固めました。

彼の生涯は、百年戦争というイングランドとフランスの長期に渡る紛争と密接に結びついています。1411年、父ヘンリー4世と兄ヘンリー5世が、フランスへの対応を巡って対立した際、トマスは父の側に立って兄と対立しました。しかし、翌年には兄弟は和解を果たします。当時のフランスは、アルマニャック派とブルゴーニュ派の内戦によって混乱を極めていました。1412年5月、トマスはアルマニャック派と同盟を結ぶという父の命令を受け、8月にノルマンディーへ上陸しました。しかし、アルマニャック派がブルゴーニュ派と和睦し、イングランドとの同盟を解消したため、遠征は成果を挙げずに終わります。11月にはイングランドに帰国せざるを得ませんでした。

兄ヘンリー5世の治世に入ると、トマスはフランス遠征に積極的に従軍します。1415年のアルフルール包囲戦など、数々の重要な戦役に参加し、その武勇を振るいました。1417年9月には、ノルマンディーの重要な都市カーンを陥落させるという偉業を成し遂げます。その後は、フランス駐留軍の司令官としてフランスにおけるイングランドの支配を維持することに尽力しました。しかし、1421年、兄に先んじてボージェの戦いで戦死しました。この戦死は、イングランドにとって大きな痛手となりました。彼の死後も百年戦争は続き、兄ヘンリー5世も翌1422年に疫病で亡くなったのです。トマスの死は、王室にとっても、そして百年戦争におけるイングランドの戦局にとっても大きな影響を与えたと言えるでしょう。

トマス・オブ・ランカスターは、シェイクスピアの史劇『ヘンリー四世 第2部』にも登場します。劇中での描写は、歴史的事実に基づいている部分と、劇的な効果のために脚色された部分があると考えられますが、彼の生涯がいかに人々の関心を集めていたかを物語っています。彼の短いながらも激動に満ちた人生は、百年戦争という歴史的転換期における、王族の一員としての苦悩と栄光、そして悲劇的な結末を鮮やかに示すものです。

参考文献

川北稔編『新版世界各国史11 イギリス史』山川出版社、1998年
城戸毅『百年戦争―中世末期の英仏関係―』刀水書房、2010年
* トレヴァー・ロイル著、陶山昇平訳『薔薇戦争新史』彩流社、2014年

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