トムタラカニ公国

トムタラカニ公国：多様な民族が息づいたタマン半島のルーシ公国

トムタラカニ公国は、10世紀から12世紀にかけて、タマン半島に位置する都市トムタラカニ（現在のロシア領）を首都として栄えたルーシ系の公国です。その領域はタマン半島に加え、クリミア半島の東部、そしてクバン川下流域にまで及んでいたと考えられています。

多様な民族が共存する公国

トムタラカニ公国の最大の特徴は、その民族構成の多様性にありました。ルーシ人だけでなく、カソグ人、アラン人、ハザール人、ギリシャ人、アバザ人など、様々な民族がこの地に共存していました。これは、他のルーシ諸公国と比較しても特筆すべき点です。

キエフ大公国との関係

トムタラカニがいつキエフ大公国の支配下に入ったのかは、史料には明確な記述がありません。有力な説としては、960年代のスヴャトスラフ1世の東方遠征時、あるいは988年のルーシ・ビザンツ戦争の結果として、キエフ・ルーシ領に組み込まれたと考えられています。それ以前は、ボスポロス王国やハザール・カガン国の一部でした。

988年または1010年から1036年にかけては、キエフ大公ウラジーミル1世の子であるムスチスラフが公国を統治しました。1022年には、カソグ人の公・レデヂャを一騎打ちで破り、カソグ人を征服。また、トムタラカニ・エパルヒニャ（主教管轄区）となる教会を設立しました。1024年には、キエフ大公ヤロスラフ1世との間でリストヴェンの戦いが起こり、ムスチスラフが勝利。トムタラカニ公国の権威を高めることに成功しました。その後も、1030年のシルヴァン遠征、1032年と1033年のアラン人との同盟による遠征など、周辺地域への勢力拡大を試みましたが、1033年の遠征は失敗に終わっています。

その後の歴史

1054年以降、トムタラカニ公国はチェルニゴフ公スヴャトスラフの支配下に置かれました。11世紀後半には、スヴャトスラフの子であるグレプ、ロマン、オレグが公位を継承しましたが、その間には他系統の公も公位に就いています。1083年には、スヴャトスラフの息子オレグがビザンツ帝国海軍の援助を得て公位に就きましたが、これが年代記に見られる最後のトムタラカニ公です。オレグは、ミハイルという聖名とともに、マタルハ（トムタラカニの別称）、ジヒ（チェルケス）、全ハザールのアルコン（執政官）として記録されています。

11世紀には、ポロヴェツ族の活動が活発化し、トムタラカニはルーシ本土から隔絶されました。ルーシの年代記において、トムタラカニが最後に言及されるのは1094年の記述です。その後、公国はビザンツ帝国領を経て、12世紀にはポロヴェツ族の勢力圏に組み込まれ、歴史の表舞台から姿を消しました。

まとめ

トムタラカニ公国は、タマン半島という地理的な特性から、多様な民族が共存し、キエフ大公国との関係や周辺民族との交流を通じて独自の歴史を刻みました。その興亡の歴史は、東ヨーロッパの歴史を理解する上で重要な要素の一つと言えるでしょう。

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