トーマス・ブラキストン

トーマス・ライト・ブラキストン：多才な英国人が遺した足跡

トーマス・ライト・ブラキストン（Thomas Wright Blakiston, 1832年12月27日 - 1891年10月15日）は、イギリス出身の人物であり、軍人、実業家、動物学者、貿易商、探検家として、多岐にわたる分野で活躍しました。特に、生物地理学における重要な概念である「ブラキストン線」の発見者として、その名を知られています。

生涯

イングランドのハンプシャー州リミントンで生まれたブラキストンは、幼少の頃から博物学、特に鳥類に強い関心を持っていました。陸軍士官学校を卒業後、クリミア戦争に従軍。その後、1857年から1858年にかけてパリサー探検隊に参加し、カナダでの鳥類標本採集やロッキー山脈の探検を行いました。1860年には軍務で中国へ派遣され、揚子江上流域の探検にも従事しました。

1863年、ブラキストンは箱館（現在の函館）に拠点を移し、製材業を開始します。日本初の蒸気機関を用いた製材所を設立しましたが、当時の蝦夷地は輸送手段が未発達であり、事業は困難を極めました。箱館戦争の影響もあり、事業は軌道に乗らず、貿易業へと転換します。1867年には、ブラキストン・マル商会を設立し、貿易商として活動しました。彼は20年以上にわたり函館に暮らし、函館の発展に大きく貢献しました。函館上水道や函館港第一桟橋の設計にも携わった他、気象観測の開始にも寄与し、福士成豊がその観測を引き継ぎました。

この間、ブラキストンは北海道を中心に千島列島にまで足を運び、鳥類の調査研究に没頭しました。

1884年にイギリスへ帰国した後、アメリカへ移住。1885年にジェームス・ダンの娘、アン・メアリーと結婚し、エドウィン・ダンとは義兄弟の関係となりました。ブラキストン夫妻には一男一女が生まれましたが、1891年、彼はカリフォルニア州サンディエゴで肺炎により亡くなりました。

ブラキストン線

ブラキストンの最大の業績は、1880年と1883年に日本アジア協会の例会で発表した、津軽海峡における動物分布の境界線の存在です。この境界線は、後にジョン・ミルンによって「ブラキストン線」と命名されました。ブラキストン線は、動物相の違いを示す境界線として、生物地理学上重要な意味を持っています。具体的には、北海道と本州で生息する動物の種類が異なり、この境界線はその違いを明確に示すものです。

ブラキストン紙幣事件

ブラキストン商会の経営が悪化した明治時代、打開策として清国向けの貿易会社設立を計画しました。しかし、資金不足から「現金100円に対し、利息前渡しで120円の証券を渡す」という内容の証券を発行。ドイツのドンドルフ・ナウマン社に依頼したところ、同社に紙幣印刷を依頼していた明治政府がこの件を知り、問題となりました。

ブラキストン商会は証券を流通させましたが、外務省は株券であり発行差し止めはできないとの見解を示した一方、大蔵省は紙幣とみなし、外国人が政府の許可なく発行することは国権侵害であると主張。政府とイギリス公使パークスとの交渉により、ブラキストン商会の証券は通用禁止となり、イギリス側で回収されることとなりました。

死後

1911年には、函館図書館の主催で没後20年祭が盛大に開催され、1960年には函館青年会議所がブラキストン線発見を記念して函館山の山頂にレリーフをはめ込んだ石碑を建立しました。ブラキストンが北海道で採集した鳥類標本は、現在、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園（北大植物園）に所蔵されています。

業績

1880年、プライアーとの共著で「日本鳥類目録」を出版。
1883年、津軽海峡に分布境界線が存在するという見解を発表し、お雇い外国人教師・ジョン・ミルンの提案でこれをブラキストン線と呼ぶこととした。

日本語訳された著書

* トーマス・W・ブラキストン『蝦夷地の中の日本』 高倉新一郎校訂、近藤唯一訳、八木書店、1979

ブラキストンは、日本の近代化に貢献しただけでなく、生物学の分野にも大きな足跡を残しました。彼の探究心と多才な才能は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

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