ナヤンターラ

ナヤンターラ（Nayanthara、1984年11月18日生まれ）は、インド南部のタミル語、テルグ語、そしてマラヤーラム語映画界で絶大な人気を誇る女優です。その圧倒的な存在感と多様な役柄への挑戦から、「南インド映画のレディ・スーパースター」という異名で親しまれています。これまでに75本を超える映画に出演しており、商業的な成功と批評的な評価の両方を手にしています。経済誌フォーブス・インディアの「セレブリティ100」リストに、南インド出身の女優として初めて選出された唯一の人物であり、その影響力と収益性の高さも証明されています。

生い立ちと背景

ナヤンターラはベンガルールに、ダイアナ・マリアム・クリアンとして誕生しました。両親であるクリアン・コディヤットゥとオマナ・クリアンはマレー系キリスト教徒で、ケーララ州の由緒あるコディヤットゥ家の出身です。インド空軍の職員だった父の勤務地を転々としたため、彼女は幼少期からインド各地で生活し、グジャラート州ジャームナガルやデリーなどで教育を受けました。その後、故郷ケーララ州ティルバラに戻り、バーリカマドム・ガールズ・ハイアー・セカンダリー・スクールとマル・トーマ・カレッジで学び、英文学士号を取得しています。また、ナヤンターラは左手の指が6本ある多指症という特徴を持っています。

キャリアの黎明期

大学時代、ナヤンターラはモデルのアルバイトをしていました。その活動中に映画監督のサティヤン・アンティカッドの目に留まり、2003年のマラヤーラム語映画『Manassinakkare』への出演をオファーされます。当初、映画に興味がなかった彼女はオファーを断ろうとしましたが、「この一作限り」という条件で出演を決意しました。同作は興行的に成功を収め、ナヤンターラのもとには次々と出演依頼が舞い込むようになります。2004年には、シャジ・カイラス監督作やファージル監督作『Vismayathumbathu』で、マラヤーラム語映画界の巨匠モーハンラールとの共演を果たし、『Vismayathumbathu』ではその演技が高く評価されました。

タミル語・テルグ語映画界への進出とブレイク

2005年、ハリ監督の『Ayya』でタミル語映画にデビューしたナヤンターラは、「タミル語映画界にセンセーションを巻き起こした」と評される鮮烈な印象を与えました。また、この頃、P・ヴァース監督に見出され、『チャンドラムキ 踊る!アメリカ帰りのゴーストバスター』への出演が決まります。『Manassinakkare』での演技が評価されての抜擢でした。同作は異例の800日以上というロングラン上映記録を樹立する大ヒットとなり、ナヤンターラはタミル語映画界で最も注目される若手女優の一人となります。同年にはA・R・ムルガダース監督作『Ghajini』に第2ヒロインとして、ペララス監督作『Sivakasi』ではアイテム・ナンバー（挿入歌のダンスシーン）に出演するなど、活躍の場を広げました。

2006年には『Kalvanin Kadhali』での演技が高く評価され、テルグ語映画にも進出し、『Lakshmi』や『Boss』に出演。同年10月21日には、『Vallavan』『Thalaimagan』『E』と、主演作3本が同時公開されるという異例の状況となりました。これらの作品では様々な批評を受けましたが、『Vallavan』ではその美貌と役への没入、『E』では複雑な役柄を演じ切る演技力などが特に高く評価されました。

確固たる地位の確立と多岐にわたる活躍

2007年、ヴィシュヌヴァルダン監督の『Billa』に出演。この作品も興行的に成功し、ナヤンターラはグラマラスなサーシャ役で絶賛されました。2008年にはタミル語映画4本を含む5本の作品に出演し、特に『Yaaradi Nee Mohini』では、これまでの性的・魅惑的なイメージを覆す深みのある演技を見せ、「これまでのキャリアで最も肉厚的な役」を完璧に演じ切ったと評されます。『Billa』と『Yaaradi Nee Mohini』での演技はヴィジャイ・アワード フェイバリット女優賞に輝き、フィルムフェア賞の主演女優賞にもノミネートされました。

2010年は彼女にとって特に飛躍的な年となりました。主演作であるテルグ語映画『Adhurs』『Bodyguard』『Simha』、タミル語映画『Boss Engira Bhaskaran』、カンナダ語映画『Super』の全てが興行的な成功を収めたのです。『Bodyguard』でアジアネット映画賞主演女優賞を受賞し、『Simha』はその年のテルグ語映画興行成績で第1位を記録。『Boss Engira Bhaskaran』も批評・興行両面で成功を収めました。また、カンナダ語映画デビュー作となった『Super』でも演技を高く評価されました。これらの功績により、フィルムフェア賞南インド映画部門において、テルグ語、タミル語、カンナダ語の各部門で主演女優賞にノミネートされるという快挙を達成しています。さらに、インド国際映画祭やドバイ国際映画祭で上映され、批評家から絶賛されたアート系作品『Elektra』にも出演し、演技の幅広さを示しました。

一時休業、復帰、そして新たな方向性

2011年、バープ監督の『Sri Rama Rajyam』でインド叙事詩『ラーマーヤナ』のヒロイン、シーター役を演じました。この役での演技は「万華鏡のような感情を控えめな演技で表現した」「優雅さを解放し、絶対的な完璧さで演じ切った」と絶賛され、ナンディ賞主演女優賞、フィルムフェア賞テルグ語映画部門主演女優賞を受賞しました。この作品は当時、結婚を控えたナヤンターラの女優引退作となる「白鳥の歌」としてメディアで大きく報じられました。

しかし、約11ヶ月間の休業を経て、2012年にクリシュ監督の『Krishnam Vande Jagadgurum』で女優業に復帰します。ジャーナリスト役を演じた彼女の演技は「商業的なグラムドールではないが、演技が良い」と評価されました。2013年にはアトリー監督の『ジョンとレジナの物語』で不幸な結婚生活を送る妻レジナ役を演じ、フィルムフェア賞やヴィジャイ・アワードの主演女優賞を獲得。「キャリアの中で最高の役の一つ」「素晴らしいカムバック」と絶賛され、完全に第一線に返り咲きました。同年にはアジット・クマールと共演したヴィシュヌヴァルダン監督の『Arrambam』でも高い評価を得ています。

人気の高まりと共に、ナヤンターラは南インド映画界ではまだ珍しい女性が主人公の作品にも積極的に出演するようになります。2014年の『Anaamika』（『女神は二度微笑む』のリメイク）は興行的に振るいませんでしたが、ワン・ウーマン・ショーとしての演技は評価されました。そして2015年公開のホラー映画『Maya』は興行的に大成功を収め、シングルマザー役を演じたナヤンターラの演技は「完璧に解き放たれている」と絶賛されます。同年には『Bhaskar the Rascal』や『Thani Oruvan』といったヒット作に出演。また、『Naanum Rowdy Dhaan』では復讐を誓う聴覚障害の女性を演じ、「完璧とも言える演技」「巧みに役柄を演じた」と非常に高く評価されましたが、作中の一シーンを巡って一部団体から抗議を受ける騒動も発生しました。2016年の『Puthiya Niyamam』ではレイプ被害者という難しい役柄に挑戦し、「キャリア最高の役の一つ」と称賛されます。2017年には『Dora』や、社会派作品『Aramm』で主役を演じ、『Aramm』で再びフィルムフェア賞主演女優賞を獲得するなど、女性主演映画を成功に導く数少ない女優としての地位を確固たるものにしています。

人物とプライベート

ナヤンターラはキャリアの中でいくつかの交際遍歴が報じられています。『Vallavan』での共演がきっかけでシランバラサンと交際しましたが破局。その後、『Villu』撮影中にプラブ・デーヴァと関係を持ち、一時は結婚の意思も表明しましたが、プラブ・デーヴァの家庭問題や一部団体からの抗議騒動を経て、2012年に破局を発表しました。現在は『Naanum Rowdy Dhaan』で共に仕事をしたヴィグネーシュ・シヴァンと交際しています。

宗教に関しては、元々トマス派キリスト教徒でしたが、2011年8月7日にチェンナイのアーリヤ・サマージ寺院でヒンドゥー教に改宗しています。この改宗の儀式を経て、出生名のダイアナ・マリアム・クリアンから、芸名であった「ナヤンターラ」を正式な本名としています。

その類まれな才能と美貌、そして多様な役柄を演じ分ける確かな演技力で、ナヤンターラはインド南部の映画界において揺るぎないトップ女優、「レディ・スーパースター」としての地位を築いています。

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