ニシン目

ニシン目（Clupeiformes）

ニシン目は、硬骨魚類に属する分類群で、約7科80属400種を含む多様なグループです。イワシ、ニシン、サッパ、コノシロなど、漁業資源として重要な魚種を多く含んでいます。これらの魚は、世界中の海や一部の淡水域に生息し、生態系において重要な役割を果たしています。

概要

ニシン目魚類は、熱帯から温帯の沿岸域に多く分布しますが、寒帯の海や汽水域にも生息する種がいます。ニシンや、産卵のために川を遡上するエツのように、回遊性の強い種もいます。また、一生を淡水で過ごす種類も存在します。日本近海には26種が分布しており、いずれも重要な漁獲対象となっています。体長は10〜30cm程度のものが多いですが、オキイワシのように全長1mに達する大型種もいます。

体型は細長い円筒形や、左右に平たい葉のような形をしています。胸鰭は腹側に寄り、背鰭は一つだけです。全ての鰭は軟条で構成され、棘条は発達しません。鰭は比較的小さく、高い遊泳能力を持ちます。高速で泳ぐ際には、体の後半部を大きく振るのが特徴です。アジ科魚類と同様に、腹部に稜鱗と呼ばれる硬い突起を持つ種類が多く、体色は背側が青や灰色、腹側は銀白色であることが一般的です。また、ニシン目特有の解剖学的特徴として、第四脳室外側陥凹という構造を持っています。

群れを作って生活するものが多く、環境や季節に応じて回遊します。特にマイワシやニシンは、海面が黒く染まるほどの大群を形成することがあります。主な餌はプランクトンで、口を開けて海水ごと吸い込み、鰓耙で濾過して捕食します。歯はあまり発達していませんが、プランクトンを効率よく捕獲するための鰓耙が櫛状に発達しています。ただし、オキイワシのように鋭い歯を持ち、他の魚を捕食する種も存在します。

ニシン目魚類は、イカ、サメ、アジ、カマス、マグロ、クジラ、イルカ、人間など多くの天敵に狙われるため、海の食物連鎖において重要な位置を占めています。天敵に遭遇すると、密集隊形を形成し、一斉に同調して泳ぐことで攻撃を回避します。

ニシン目の多くは重要な食用魚として漁獲され、巻き網、定置網、刺し網などで大量に漁獲されます。食用以外にも、釣り餌、飼料、肥料など様々な用途で利用されています。

分類

ニシン目は、デンティケプス亜目とニシン亜目の2つの亜目に分けられます。現生種は、一部を除き、ほとんどがニシン亜目に分類されます。

デンティケプス亜目（Denticipitoidei）

デンティケプス亜目は、1科1属1種のみで構成される単型亜目です。デンティケプス科は、現生種としてDenticeps clupeoidesのみを含み、ナイジェリアやカメルーンの河川に生息する体長6cm程度の小型淡水魚です。頭蓋骨表面は微細な突起で覆われ、完全な側線を持ち、尾鰭は16本の鰭条で構成されます。第四脳室外側陥凹の構造は、他のニシン目魚類と比較して原始的です。また、タンザニアの中新世の地層からは、本科に属する絶滅種Palaeodenticeps tanganikaeの化石が発見されています。

ニシン亜目（Clupeoidei）

ニシン亜目は、約5科80属400種で構成され、デンティケプス亜目とは異なり、側線はあまり発達せず、側線鱗も持ちません。尾鰭を構成する鰭条は19本です。浮き袋の形態に多様性が見られ、細い管を通じて内耳と接続しているなど、特殊な構造を持つ場合があります。

カタクチイワシ科（Engraulidae）

約17属150種で構成され、三大洋に広く分布する海水魚が多く含まれます。ペルーアンチョビやカタクチイワシなど、重要な食用魚種が多数います。また、南アメリカを中心に17種の淡水産種が知られています。ニシン科とは異なり、化石種は極めて少ないのが特徴です。上顎骨の後端は眼よりも後ろまで伸び、吻（口先）はややとがり、下顎よりも前に突き出ることが多いです。

カタクチイワシ科は、さらにエツ亜科とカタクチイワシ亜科に分けられます。

エツ亜科：5属47種で、腹鰭の前後に稜鱗を持ちます。臀鰭が長く、エツ属では尾鰭と連続しています。
カタクチイワシ亜科：11属92種で、腹部の稜鱗は腹鰭の前方のみに見られます。臀鰭は短く、ほとんどの種類は南北アメリカ大陸の沿岸に分布しています。

ウルメイワシ科（Dussumieriidae）

2属14種からなり、かつてはニシン科に含まれていました。鰓条骨は11〜18本で、腹部稜鱗はW字型で腹鰭を支えます。前上顎骨は四角形です。

Dussumieria 属：7種（ギンイワシ）
Etrumeus 属：7種（ウルメイワシ）

キビナゴ科（Spratelloididae）

2属8種からなり、かつてはニシン科やウルメイワシ科に含まれていました。鰓条骨は6〜7本で、腹部稜鱗はW字型で腹鰭を支えます。前上顎骨は三角形です。

Spratelloides 属：4種（キビナゴ）
Jenkinsia 属：4種

オキイワシ科（Chirocentridae）

1属1〜2種からなり、体長1mに達する大型の捕食魚です。インド洋と西部太平洋に生息し、体は細長く左右に平らです。顎には牙のような鋭い歯を備え、腹鰭はごく小さく、腹部稜鱗は成魚ではほとんど見られません。

Chirocentrus 属

ヒラ科（Pristigasteridae）

約10属40種からなり、世界の熱帯・亜熱帯海域に分布し、一部に淡水産種を含みます。多くは上向きの口を持ち、顎の歯は小さいです。腹鰭がない種類も存在します。第三下尾骨に切れ込みがあるなど、他のニシン目魚類には見られない骨格上の特徴がいくつかあります。

ヒラ科は、ヒラ亜科とPristigasterinae亜科に分けられます。

ヒラ亜科：5属26種。上顎の構造によって分類されます。
Pristigasterinae亜科：4属12種。第一肋骨に見られる突起が特徴です。

ニシン科（Clupeidae）

約50属200種からなり、世界のほとんどの海域に分布し、水産資源として非常に重要な存在です。口は体の先端にあるか、やや上向きについています。歯の発達は悪く、プランクトンを主食とします。少数の例外を除き、腹部に稜鱗を持ち、多くの種類は体長25cm未満です。

ニシン科は、さらにニシン亜科、Ehiravinae亜科、ニシンダマシ亜科、コノシロ亜科に分けられます。

ニシン亜科：6属15種（ニシン、タイセイヨウニシン、フエゴニシンなど）
Ehiravinae亜科：11属31種
ニシンダマシ亜科：4属32種（マイワシなど）
コノシロ亜科：30属108種（コノシロ、サッパなど）

系統

（系統樹の記述）

脚注

(脚注の記述)

参考文献

藍澤正宏ほか 『新装版 詳細図鑑 さかなの見分け方』 講談社
檜山義夫監修 『野外観察図鑑4 魚』 改訂版 旺文社
内田亨監修 『学生版 日本動物図鑑』 北隆館
上野輝彌・坂本一男 『新版 魚の分類の図鑑』 東海大学出版会 2005年
岡村収・尼岡邦夫監修（ニシン目執筆者：佐藤陽一） 『日本の海水魚』 山と溪谷社 1997年

外部リンク

* FishBase － ニシン目 （英語）

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