ニューヨーク・エア

かつてアメリカ合衆国で空を飛んでいた航空会社の一つに、ニューヨーク・エア (New York Air) があります。同社は、1979年にフランク・ロレンツォ氏によって設立されました。

設立の背景と初期戦略

設立当時、ニューヨークとワシントンD.C.を結ぶ主要な航空路線では、イースタン航空が予約不要のシャトル便を運航し、大きなシェアを占めていました。ニューヨーク・エアは、この有力な競争相手に対抗することを目指し、1980年12月19日にニューヨークのラガーディア空港とワシントンD.C.のナショナル空港を結ぶシャトル便の運航を開始しました。

当時のシャトル便は、文字通り予約なしで搭乗でき、機内サービスも最小限にとどめられているのが一般的でした。しかし、ニューヨーク・エアは差別化を図るため、事前予約を可能とし、機内では軽食を提供するなど、一歩進んだサービスを展開しました。これは、イースタン航空のシャトル便とは異なるアプローチで顧客を獲得しようとする戦略でした。

路線網の拡大と困難

運航開始後、ニューヨーク・エアは積極的に路線網を拡大していきます。1981年には、2月15日のラガーディア空港からボストンへの路線開設を皮切りに、ローリー・ダーラム、デトロイト、オーランド、ニューオーリンズ、タンパなど、次々と新規路線を開設しました。また、シャトル便の需要が比較的減少する週末には、機体の稼働率を高める狙いもあり、フロリダ方面へのチャーター便の運航も手がけました。

しかし、事業拡大の途中で予期せぬ事態が発生します。アメリカ全土で航空管制官によるストライキが発生し、航空業界全体が混乱に陥りました。この事態により、ニューヨーク・エアも運航規模の縮小を迫られ、主要な拠点をラガーディア空港からニューアーク空港へと移転せざるを得なくなりました。

競争と戦略転換

ところが、このニューアーク空港は、当時、その低運賃で知られていたピープル・エキスプレスの主要な拠点でした。そのため、ニューヨーク・エアは移転当初から厳しい競争に直面しました。拠点を移したその年、年間150万人もの乗客を輸送しながらも、同社は1100万ドルもの赤字を計上するという苦境に立たされます。

低運賃での競争ではピープル・エキスプレスに太刀打ちできないと判断したニューヨーク・エアは、戦略を大きく転換します。ターゲットを価格重視の旅客からビジネス客に絞り込み、短距離路線でありながらも充実したフルサービスを提供する方針を採用しました。しかし、この思い切った方針転換は残念ながら功を奏さず、かえってニューヨーク・エアの業績を悪化させる結果となりました。これを受けて、同社は再び戦略の見直しを迫られ、ハブ空港をワシントン・ダレス国際空港へと移し、大手の路線を補完するフィーダー路線の運航に注力する方針へと再転換を図りました。

終焉へ

一方その頃、ニューヨーク・エアを設立したフランク・ロレンツォ氏は、航空業界で積極的な動きを見せていました。1986年2月には競争相手であったイースタン航空を、同年6月にはニューアークで競合していたピープル・エキスプレスを相次いで買収し、ニューヨーク・エアの主要な競合他社を自身の傘下に収めたのです。

この親会社の状況変化を受け、ニューヨーク・エアは1986年10月1日、収益性の高かったニューヨーク発着のワシントンD.C.線とボストン線、いわゆるシャトル便をパンアメリカン航空に売却しました。主要な収益源であった基幹路線を失ったニューヨーク・エアは、その存続が困難となり、翌1987年2月1日、同じロレンツォ氏の傘下にあったコンチネンタル航空に吸収合併される形で、短い歴史に幕を閉じました。

主な使用機材

ニューヨーク・エアが運航していた主な航空機は以下の通りです。

ダグラス DC-9-31/32
マクドネル・ダグラス MD-82
* ボーイング 737-300

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