ノートン・サウンド (ミサイル実験艦)

アメリカ海軍のカリタック級水上機母艦として計画された「ノートン・サウンド」は、1942年9月7日にカリフォルニア州サンペドロで起工され、1945年1月8日に就役しました。その艦名は、アラスカ州西部に広がるノートン湾に由来します。

第二次世界大戦中、太平洋での慣熟航海を終えた本艦は、1945年2月末にサンディエゴを出港し、真珠湾を経てマーシャル・ギルバート諸島での訓練に参加。その後、4月にはサイパンに進出し、水上機の支援任務に就きました。沖縄戦においては、慶良間列島の阿嘉海峡に停泊し、敵航空機による攻撃への対応を支援。日本の降伏後も、9月まで沖縄で航空作戦の維持にあたりました。その後、佐世保、上海、青島などを歴訪し、1946年4月まで中国・日本周辺で占領軍の活動を支えています。これらの功績により、第二次世界大戦の従軍星章を2個受章しました。

戦後、「ノートン・サウンド」はその役割を大きく変えることになります。1946年4月に日本を離れ、東海岸での任務に短期間従事した後、太平洋艦隊に復帰しました。1948年にはフィラデルフィア海軍造船所で約7ヶ月に及ぶ大規模な改装を受け、誘導ミサイルの発射・制御設備が装備され、ミサイル発射プラットフォームへと生まれ変わりました。新たな母港ポートワイニミ（カリフォルニア州）を拠点に、スカイフック気球や初期の訓練ミサイルの発射試験を実施。これは海軍水上艦艇による誘導ミサイル運用の先駆けとなりました。

1949年2月には、ロングビーチ海軍造船所でエアロビーロケットの発射装置が追加され、南米沖の赤道海域で2基のエアロビーロケットを発射。これらの観測から得られた情報は、地球の放射帯に関する理解に貢献しました。さらに、1949年夏にはハワイ南方の磁気赤道で、科学観測機器を搭載した多数のスカイフック気球による実験を実施しています。

1950年にはサンフランシスコ海軍造船所で改修を受け、5月にはプロジェクト・リーチの一環として、5トンのヴァイキング・ロケットを高度171kmまで打ち上げ、宇宙線データの収集に成功しました。これは「ノートン・サウンド」がミサイル試験艦として活動する初期段階の重要な成果でした。

1950年秋からのオーバーホールでは、新型のテリアミサイル発射装置と誘導システムが搭載され、1951年8月8日にはミサイル実験艦 (AVM-1) へと艦種が変更されました。これは1955年までに3度実施された大規模改装の最初のものです。テリアやターターといったミサイルの発射試験は1958年まで継続されました。

1958年には、高高度核実験計画「アーガス作戦」に参加。フォークランド諸島沖から核弾頭搭載のX-17ミサイル3基を大気圏上層部へ向けて発射し、その爆発の観測データはヴァン・アレン帯の発見に繋がる重要な情報を提供しました。

その後もサンディエゴを拠点にミサイル試験を続けましたが、1962年8月10日に一度目の退役を迎えます。

しかし、「ノートン・サウンド」の歴史は終わりませんでした。メリーランド州ボルチモアでタイフォン・システムやAN/SPG-59レーダーが装備され、1964年6月20日に新型兵器研究艦として再就役。チェサピーク湾でのタイフォンシステム評価に続き、ポートワイニミへの配属後はシースパロー・ミサイルの評価試験も手掛け、1965年9月にはその初発射を行いました。1966年の改修でタイフォンシステムは撤去されましたが、その後も様々なミサイル対抗装置や電子戦機器、新型ジャイロスコープなどの評価試験を継続しました。

1973年には、アメリカ海軍の主力戦闘システムとなるイージスシステムが最初に搭載された艦となり、その初期試験を担当。さらに1981年春には、パスカグーラの造船所で垂直発射システム (VLS) の先行生産型が装備され、タイコンデロガ級巡洋艦に搭載されるVLSの唯一の海上試験プラットフォームとして、退役まで大規模な試験に従事しました。

「ノートン・サウンド」は、水上機母艦から始まり、誘導ミサイル、核実験支援、イージスシステム、VLSなど、革新的な兵器システム開発の最前線で活躍した稀有な存在でした。1986年12月11日に退役し、1987年1月26日に除籍。その後、国防予備船隊に編入され、歴史的な任務を終えました。

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