常備軍

常備軍の歴史：古代から近世までの展開

常備軍とは、恒常的に編成され、プロフェッショナルな兵士で構成される軍隊です。志願兵または徴兵によって構成され、戦争時のみならず平時にも存在し、訓練・装備を整え、即応性を維持しています。これは、必要時に召集される予備役や、臨時に編成される民兵とは明確に区別されます。常備軍は高度な訓練と装備により、高い戦闘能力と抑止力を備え、国家の安全保障に重要な役割を果たします。

古代世界の常備軍

メソポタミア: アッカド帝国のサルゴン王がプロの軍隊を組織したとされますが、確実な記録が残る最古の常備軍は、アッシリアのティグラト・ピレセル3世（紀元前745～727年）が創設したものです。彼は民兵を解体し、プロの兵士に給与を支払うことで、アッシリア経済を支える強力な軍隊を築き上げました。

古代ギリシャ: 古代ギリシャでは、都市国家の軍隊は主に市民兵でした。例外はスパルタで、彼らは年間を通して訓練を行う常備軍を擁していました。マケドニアのピリッポス2世は、初めて本格的なプロのギリシャ軍を創設しました。

古代中国: 夏、殷、周の各王朝は、貴族が率いる軍隊を保有していましたが、農民や奴隷に大きく依存していました。西周は常備軍を維持し、支配を拡大しましたが、東周は当初、常備軍を持たず、民兵に頼っていました。晋が紀元前678年に常備軍を編成し、秦が中国初のプロの軍隊を創設しました。

古代インド: ヴェーダ時代から戦争は存在していましたが、主にクシャトリヤ階級が担っていました。十六大国時代、特にマガダ王国で、年間を通して給与を受けるプロの兵士を基盤とした常備軍が発展しました。ナンダ帝国とマウリヤ朝は、大規模な常備軍を維持し、帝国の拡大を実現しました。カウティリヤの『実利論』は、マウリヤ朝の常備軍の構成と役割を詳細に記しています。

古代ローマ: ローマ帝国では、アウグストゥスの治世以降、正規の給与を受けるプロの常備軍が整備されました。軍団兵は市民志願兵で、25年間の軍務後に除隊報奨金を受け取りました。補助兵力であるアウクシリアは、属州民で構成され、軍務への報酬として市民権を獲得しました。

中世・近世の常備軍

オスマン帝国: 1363年、ムラト1世が編成したイェニチェリは、中世ヨーロッパにおける最初の近代常備軍とされます。

フランス: 百年戦争中の1430年代、シャルル7世が給与制の常備軍を創設しました。当初は勅令中隊として編成され、後にフランス大陸軍の中核となりました。アンリ2世は、民兵組織に取って代わる歩兵連隊を編成し、フランス軍の正規軍化を進めました。

ハンガリー: 1462年、マーチャーシュ1世が設立した黒軍は、中央・東ヨーロッパにおける最初の常備軍の一つです。ハンガリーは、1420年代から国境要塞の駐屯兵という形で常備軍を維持していました。

スペイン: スペイン帝国のテルシオは、プロの兵士で構成された常備軍であり、16～17世紀前半のヨーロッパ戦場で活躍しました。

サハラ以南アフリカ: ソンガイ帝国は、近衛騎兵を中心とした常備軍を保有し、軍事力を背景に勢力を拡大しました。アスキヤ・ムハンマドは、文民と戦士の区別を明確化しました。

イングランド・イギリス: イングランド内戦でクロムウェルが組織したニューモデル軍は、プロ兵士による効果的な常備軍であり、彼の権力掌握に貢献しました。王政復古後、軍は解散されましたが、その後、徐々に常備軍が整備され、議会との権力闘争のなかでその規模と役割が変遷しました。権利の章典は、常備軍に対する国王の権限を議会の同意に制限しました。

アメリカ: アメリカ独立後の合衆国では、常備軍への不信感が強く、憲法では連邦予算と財政管理を議会に委ねています。しかし、大統領は最高司令官として軍隊の指揮権を保有します。米英戦争での民兵の敗北は、常備軍の必要性を改めて示しました。

まとめ

常備軍は、古代から近世にかけて、国家の安全保障や権力維持に重要な役割を果たしてきました。その成立と発展は、社会・経済構造、政治体制、軍事技術などの様々な要因に影響を受け、時代とともに変遷を繰り返してきました。常備軍の歴史を考察することで、国家と軍隊の関係、戦争と平和の問題、近代国家の形成過程など、様々な歴史的課題について理解を深めることができます。

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