ハルバーシュタット市電

ハルバーシュタット市電（Straßenbahn Halberstadt）は、ドイツ連邦共和国のザクセン＝アンハルト州西部、ハルツ山地の東麓に位置するハルバーシュタット市で運行されている路面電車です。現在、その運営はハルバーシュタット交通（Halberstädter Verkehrs-GmbH、略称：HVG）によって行われています。

歴史

この路面電車の始まりは、1887年 6月28日に設立された民営の馬車鉄道会社、ハルバーシュタット馬車鉄道に遡ります。馬車鉄道は市の所有となり、1903年には電化工事が完成して路面電車へと転換されました。以降、ハルバーシュタット市内における重要な公共交通機関として機能し続けます。

第二次世界大戦末期の1945年 4月8日、ハルバーシュタットは大規模な空襲に見舞われ、市街地の大半が破壊されるとともに、路面電車も運行不能なほどの深刻な被害を受けました。しかし、終戦からわずか3ヶ月後の同年8月18日には、復旧作業を経て運行が再開されました。

戦後、東ドイツの一部となったハルバーシュタット市電の運営体制は幾度かの再編を経験します。1951年からはハルバーシュタット市交通会社が運営を担い、1982年からはより広域を管轄するマクデブルク複合交通の一部となりました。この間、運賃収受の効率化を図るため、信用乗車方式が導入されて車掌の業務が廃止されるなどの合理化が進められました。車両については、東ドイツ製の2軸車が導入されましたが、1970年代以降は他都市から転属してきた中古車両が中心となります。

ドイツ再統一へと向かう時代の流れの中で、1990年には市電の運営権が再びハルバーシュタット市に戻され、1992年には市が出資する新たな運営会社、ハルバーシュタット交通（HVG）が設立されて事業が引き継がれました。HVGは設立後まもなく、市電の抜本的な近代化に着手します。軌道やインフラの改修工事を進めると同時に、車両の刷新も実施しました。1992年からはシュトゥットガルト市電をはじめとする西ドイツ各地の路面電車から譲り受けた2車体連接車を導入し、老朽化した旧式の2軸車を2003年までに全て置き換えました。

さらに、これらの譲渡車両も次世代の車両によって置き換えが進みます。2007年以降に導入された部分超低床電車『レオライナー』により、車両のさらなる近代化が図られました。この結果、2018年のダイヤ改正からは、ハルバーシュタット市電の定期列車は全てレオライナーで運行される体制となりました。

一方で、ハルバーシュタット市電は現在、運営上の複数の課題に直面しています。電気料金などの運営コスト増加、運転士をはじめとする人員不足に加え、最新型であるレオライナーの将来的な維持費用高騰も懸念材料となっています。こうした状況を踏まえ、2014年の時点では将来的な路面電車事業そのものの廃止も検討の対象となっていることが明らかにされています。ただし、レオライナー導入時にザクセン＝アンハルト州から受けた補助金との関連から、仮に廃止が決定されたとしても、その実行は2033年以降となる見込みです。

運行

2018年のダイヤ改正以降、ハルバーシュタット市電は以下の2系統によって運行されています。ただし、早朝や深夜の一部時間帯には、同じ経路でノンステップバスによる代行輸送が行われています。

運賃体系は、ハルバーシュタット交通が運行する路線バスと共通です。路面電車の運賃は距離に応じて設定されており、4電停までの短距離利用は1.3ユーロ、それ以上の距離の利用は1.8ユーロとなっています（金額は2021年時点の情報に基づきます）。

車両

営業用車両

2021年現在、ハルバーシュタット市電の定期営業運転に用いられているのは、ハイターブリック社製の部分超低床電車『レオライナー』です。ハルバーシュタット交通は、以前使用していたGT4形に代わる新型車両として、導入費用や構造面からレオライナーを選択しました。この車両は片側にのみ運転台を持つ2車体連接車で、車内のおよそ60%が床面高さ350mmから470mmの低床構造となっています。

レオライナーは2006年から営業運転を開始し、2007年までに5両（車両番号1～5）が導入されました。これにより旧型のGT4形が置き換えられ、前述のように2018年以降は定期列車全てがレオライナーでの運行となっています。

動態保存車両など

ハルバーシュタット市電では、過去に活躍した車両の一部が動態保存されています。

GT4形

ドイツ再統一後、旧式の2軸車を置き換え、輸送力増強のために西ドイツ各地から譲り受けた2車体連接車です。各車体に1台の台車を備える特徴があります。ハルバーシュタット市電には以下の2種類が導入されましたが、譲渡時点で製造から数十年が経過しており老朽化が進んでいたため、2018年までに定期運用から撤退しました。2021年現在は一部車両が動態保存用として残っています。

片運転台車両: シュトゥットガルト市電からの譲渡車。1991年から1994年にかけて10両が導入されました。現在1両（156）が保存されています。
両運転台車両: フライブルク市電（1994年～1997年、6両導入）およびノルトハウゼン市電（2003年、2両導入）からの譲渡車です。これらの導入により、営業用の2軸車は全て置き換えられました。現在、フライブルク市電からの3両（164、167、168）が保存されているほか、同じくフライブルク市電からの1両（166）が子供向けの貸切専用車両「HaKiBa（Halberstädter Kinderbahn）」として活用されています。

2軸車

かつてハルバーシュタット市電の主力として活躍した2軸車も、一部が動態保存されています。

31: 1939年製造の車両。第二次世界大戦前の製造車両は多くが廃車されましたが、この1両のみが残り、2021年現在も保存されています。
36: 1954年に導入されたET54形。
39: 1961年製造のET57形。
61: 1970年代にコトブス市電から譲渡された付随車（B2-62形）。主に39と連結して運行されることがあります。
30: 1970年代にハレ市電から譲渡されたT2-62形。
29: 1970年代にイェーナ市電から譲渡された両運転台のREKO形車両。

ハルバーシュタット市電は、その長い歴史の中で、馬車鉄道から始まり、戦災からの復興、東ドイツ時代の変遷、そしてドイツ再統一後の近代化を経て、現在に至ります。最新鋭のレオライナーが定期運用を担う一方で、経営課題や将来の不確実性も抱えていますが、過去の車両を保存するなど、鉄道遺産の継承にも取り組んでいます。

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