アステル

アステル（ASTEL）とは

アステルは、1995年10月から2006年12月にかけて存在したPHS事業者グループの総称、および同グループが提供していたPHSのブランド名です。「Advanced Style of Telecommunications」（テレコミュニケーションの進歩形）の略称として名付けられ、「明日の電話」という意味も込められていました。

概要

アステルは、NTTパーソナル（後のNTTドコモ（PHS））やDDIポケット（後のウィルコム）に次いでサービスを開始しました。電力系通信事業者が実質的な母体であり、事業地域は電力会社の管轄区域と一致していました。

中核会社のアステル東京には、大手商社や非NTT・非DDI系の通信会社、ダイエー、リクルートなどが出資していました。リクルート出身の柳田要一氏の発案により、着信メロディの配信サービスを先駆けて行い、1998年にはアステル東京が着メロの商標登録を行いました。

アステル各社は、地域ごとに独自性が強く、通信回線も電力系通信事業者の回線を利用した独自網と、NTT回線に依存するグループに分かれていました。このため、当初は独自網とNTT依存網間でのローミングができないなどの問題が発生しました。1998年4月に全国ローミングサービスが開始されましたが、ローミング時の料金体系の相違は最後まで解決されませんでした。

また、アステルの特徴として、山間部など人家の少ない場所でもサービスが提供されていました。これは、送電施設や発電ダムなどの電力会社の施設に設置されたアンテナを利用していたためです。

衰退

携帯電話の低価格化やサービスエリアの狭さから、PHSの契約数は伸び悩み、1998年にはNTTパーソナルが経営を断念しました。アステルグループも経営難に陥り、2005年の事業終息までに、沖縄を除き、各社は母体の電力系通信事業者に吸収合併または事業譲渡されました。

2002年には、ITベンチャーの鷹山が東京電話アステルのPHS事業を買収しましたが、同年にはアステル九州が新規受付を停止、翌年にはサービスを終了し、PHS事業者として日本国内初のサービス廃止となりました。これを皮切りに、他のアステルグループも事業終了への流れが加速しました。

グループの終焉

2004年12月には全国ローミングサービスが停止され、アステルグループは事実上崩壊しました。同日までに、九州、北海道、北陸、関西がサービスを終了し、他の地域でも新規受付を終了しました。最後まで新規受付を継続していた東北も、2005年7月に終了しました。

アステルの契約者は、ウィルコム（旧DDIポケット）のPHSや、一部地域では携帯電話への移行が行われました。移行の際には、電話番号が変更となりましたが、新規加入手数料や機種代金はアステル地域会社の負担となりました。アステル東北は2006年12月に事業を終了し、アステルグループの音声PHS事業は約12年で完全に幕を閉じました。

サービス

データ通信

1997年にPIAFS1.0規格による32kbpsのデータ通信サービスを開始し、1998年には独自方式での64kbpsデータ通信サービスを開始しました。これは2台の端末を使うものでしたが、後に音声端末を接続可能なデータ通信カードが発売されました。

データ通信定額制

2000年初夏ごろから、一部の地域で定額制のPHSデータ通信サービスが開始されました。北海道、北陸、東北、関西、中国などで、それぞれ異なる名称でサービスが提供されました。これらのサービスは、DDIポケット（現ウィルコム）のAirH"よりも早く開始されましたが、サービスエリアは各地方会社のエリア内に限定され、全国展開は叶いませんでした。

MOZIO

MOZIOは、PHS音声端末による情報配信サービスとメールサービスです。着信メロディサービスに続いて開発され、1998年10月に東京でサービスが開始されました。ニュースや天気などの情報閲覧や着信メロディのダウンロードができました。メールサービスもありましたが、2004年11月30日にサービスを終了しました。

ドットi

ドットiは、2000年12月に開始された携帯電話IP接続サービスです。cHTMLブラウザを内蔵し、インターネットメールの利用も可能でした。しかし、ドコモPHSが同様のサービスを開始したことで契約者は減少し、2004年11月にサービスを終了しました。

ポケベル一体型サービス

テレメッセージ各社のポケベル機能をPHS端末に一体化した機種も発売されていました。沖縄テレメッセージでは2017年4月までポケベルサービスが継続されていました。

通話サービス

着メロは、1997年に開始されたサービスで、電話で楽曲を選択すると着信メロディのデータがダウンロードされました。まっtelは、着信専用とすることで基本料金を無料または廉価にした契約プランです。また、プリペイドPHSサービスも提供されていました。

アステル事業を運営していた事業者一覧と各社の業務区域

アステルは、以下の各地域会社が各電力会社と同じ管轄で事業を行っていました。

アステル北海道：北海道
アステル東北：青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、新潟県
アステル東京：茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県（富士川以東）
アステル中部：長野県、岐阜県、静岡県（富士川以西）、愛知県、三重県
アステル北陸：富山県、石川県、福井県
アステル関西：滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
アステル中国：鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
アステル四国：徳島県、香川県、愛媛県、高知県
アステル九州：福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県
アステル沖縄：沖縄県

通信端末

主な参画メーカー

アステルの端末には、以下のようなメーカーが参画していました。

日本無線（J）
東芝（T）
ミヨシ電子（X）
松下通信工業（P）
デンソー（D）
[日本電気]（N）
日本アイビーエム（I）
シャープ（S）
三菱電機（M）
ユニデン（U）
日立製作所（H）
鳥取三洋電機（Y）

音声端末

アステルからは、さまざまな音声端末が発売されていました。

アステル電話機 (32kbps通信非対応)
アステル 32kbps シリーズ
アステル exe シリーズ
アステル ドットi シリーズ
その他の音声端末

データ通信端末

アステルのデータ通信端末には、以下のようなものがありました。

AN-X1
MA-N2
MA-N3

過去の地域別アステル各社の特徴

各地域のアステル会社には、それぞれ独自の特徴がありました。

アステル九州：日本で初めて事業停止したPHS事業者。
アステル北海道：32kbpsの定額制PHSデータ通信サービスを早期に提供。
アステル北陸：独自網のISDNも同時に廃止。
アステル関西：新規受付終了が即日実施。
アステル中国：アステルブランド以外のサービスも提供。
アステル沖縄：ウィルコムに事業譲渡。
アステル四国：時間帯制限のある定額制と時間帯無制限の定額制を提供。
アステル中部：「5円コール」を実施。
アステル東京：テレメトリングサービスを存続。
アステル東北：ウィルコム定額プランが適用され、最後までサービスを継続。

アステルは、PHSの黎明期に革新的なサービスを提供しましたが、携帯電話の普及により、その役割を終えました。しかし、その歴史は、日本の通信史に重要な足跡を残しています。

もう一度検索