バニヤース

シリア北西部に位置する港湾都市バニヤース：歴史と現状

バニヤースは、シリア北西部タルトゥース県北部にある港湾都市です。地中海の沿岸に位置し、カルアト・エル＝マルカブの丘のふもとに広がり、ラタキアから南へ約55km、タルトゥースから北へ約35kmの場所に位置しています。人口は約42,000人です。

古代からの歴史と交易

バニヤースの歴史は古く、フェニキア時代から重要な港として栄えてきました。古代ギリシャ人にはバレミア、古代ローマ時代にはバラナエアと呼ばれ、地中海貿易の中心地として重要な役割を果たしていました。ストラボンの『地理誌』には、バラナエアがタルトゥース沖のアルワード島にあった都市アラドゥスの支配下にあったことが記されています。6世紀の歴史学者ステファヌスは、バニヤースをフェニキアの一部と位置づけていますが、実際にはシリア属州アパメアの管轄下にありました。325年の第1ニカイア公会議には、バラナエアからも司教が出席していることが記録されており、キリスト教においても重要な都市であったことがわかります。現在でもカトリック教会は「バラネア」に名義のみの司教区を置いていますが、2008年以降は空席となっています。

十字軍時代とマルガット城

十字軍時代には、バニヤースはヴァラニアと呼ばれ、城壁で囲まれた要塞都市となりました。この地には、十字軍が築いたマルガット城（マルガット要塞）がそびえ立っています。黒玄武岩の石材で作られたこの城は、堂々とした姿で現在も残っており、バニヤースの歴史を物語っています。ヴァラニアの南を流れる小川は、アンティオキア公国とトリポリ伯国の境界線として機能していました。1188年のサラーフッディーンによる遠征では、ヴァラニアとマルガット城は陥落を免れましたが、ヴァラニアの司教はより安全なマルガット城に移りました。しかし、1285年にマムルーク朝がマルガット城を陥落させた後、バニヤースはただの村へと衰退していきました。19世紀後半には、バニヤース周辺にヴァラニアの廃墟が見られたそうですが、開発によって跡形もなくなってしまったとのことです。

近代以降の変遷と石油産業

バニヤースは、古くから背後の山岳部や農村から出荷される果実や木材の輸出港として機能してきました。しかし、イラクからの石油パイプラインが伸びていることから、製油所や石油積出港としての役割が次第に重要性を増し、経済の中心は石油産業へと移っていきました。一方で、イラン・イラク戦争や湾岸戦争、そしてその後の経済制裁など、中東情勢の影響を大きく受けてきました。

自然環境と現在

バニヤースの町周辺には緑豊かな丘陵が広がり、シトラスの果樹園が点在しています。地中海性気候の恵みを受けた豊かな自然環境は、現在も町の風景に彩りを添えています。歴史的建造物と自然が調和したバニヤースは、シリアの歴史と文化を理解する上で重要な都市であり、今後もその魅力は変わることがないでしょう。ただし、現代においても中東情勢の影響を強く受けていることを忘れてはいけません。 歴史と自然、そして石油産業という複雑な要素が混在するバニヤースは、今後もその複雑な歴史と現状を背負いながら、変化を続けていくことでしょう。

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