パイパー PA-28

パイパー PA-28 チェロキー：軽飛行機の代表

パイパー PA-28 チェロキーは、パイパー・エアクラフト社が製造する、単発レシプロ軽飛行機のファミリーです。その設計は、飛行訓練、エアタクシー、自家用など幅広い用途に対応しており、世界中で広く利用されています。全金属製、非与圧、低翼、前輪式という特徴を持ち、副操縦士側のドアから主翼を踏んで乗り込む設計です。1960年に最初の型式証明を取得して以来、現在も生産が続けられており、その長い歴史の中で、数多くの派生型が開発されてきました。

チェロキー・ファミリーの特徴

PA-28ファミリーは、全てが全金属製で、与圧されていない低翼の単発レシプロ機です。操縦席へのアクセスは、副操縦士側のドアから主翼を踏んで行います。このファミリーは、固定脚と引込脚、固定ピッチプロペラと定速プロペラなど、さまざまな構成のモデルが存在します。また、140馬力から300馬力までの幅広いエンジンを搭載したモデルが製造されています。座席数を増やして6人乗りとするために胴体を延長した派生型は、一般的にPA-32と呼ばれます。初期のPA-32は「チェロキー・シックス」として知られ、後の型は「サラトガ」として2009年まで生産されました。

開発の背景

チェロキーの開発は、パイパー社の主力単発機であったPA-24コマンチよりも、製造コストと部品コストを抑えることを目的としていました。コマンチは、引込脚と定速プロペラを装備した大型機でしたが、チェロキーは、セスナ172に対抗できる、より安価な代替機として設計されました。しかし、その後、引込脚と定速プロペラを装備したモデルも登場しました。チェロキーとコマンチは、10年以上にわたり並行して製造され、異なる市場区分に対応しましたが、コマンチはPA-32Rに置き換えられる形で、1972年に製造が終了しました。

PA-28チェロキーの歴史

1961年に製造が開始されたオリジナルのチェロキーは、チェロキー150とチェロキー160（PA-28-150、PA-28-160）です。モデル番号は、搭載エンジンの馬力を表しています。1962年には、180馬力のライカミングO-360エンジンを搭載したチェロキー180（PA-28-180）が加わり、4人乗りでも実用的な飛行が可能になりました。このモデルは現在でも中古市場で人気があります。1968年には、操縦席の改良や3番目の窓の追加が行われ、現代的な外観になりました。

パイパーは、ラインナップの拡大を続け、1963年には、積載量でセスナ182に対抗できるチェロキー235（PA-28-235）を発表しました。チェロキー235は、ライカミングO-540エンジンを搭載し、長い主翼とチップタンクを装備していました。1973年には胴体が延長され、スタビレーターの面積も拡大されました。販売名は、「235」から「チャージャー」、「パスファインダー」と変更され、1979年にはテーパー翼を持つ「ダコタ」となりました。

1964年には、練習機として設計されたチェロキー140（PA-28-140）がラインナップの最下位として登場しました。当初は2人乗りでしたが、後に150馬力エンジンを搭載した4人乗りモデルも登場しました。1967年には、定速プロペラと引込脚を装備したチェロキー・アロー（PA-28R-180）が発表され、180馬力モデルは1971年に販売が中止されました。アローの登場と同時に、チェロキー150と160の生産は終了しました。1972年には、後席の足元を広げるために胴体を延長したアローIIが登場し、1977年には、セミテーパー翼と長いスタビレーターを装備したアローIII（PA-28R-201）が発表されました。1979年には、T字尾翼を持つアローIVが登場しました。

1971年には、チェロキー140の派生型であるチェロキー・クルーザー2+2が発売されました。このモデルは150馬力エンジンを搭載しており、主に4座バージョンとして販売されました。1973年には、チェロキー180はチェロキー・チャレンジャー、チェロキー235はチャージャーと改称されました。1974年には、チェロキーのモデル名が再度変更され、クルーザー、アーチャー、パスファインダーとなりました。また、1974年には、チェロキー150がチェロキー・ウォーリア（PA-28-151）として再発表され、アーチャーの延長された胴体とセミテーパー翼を与えられました。

1977年には、クルーザーとパスファインダーの製造が中止され、新しい235馬力のダコタ（PA-28-236）が登場しました。これは、チェロキー235、チャージャー、パスファインダーをベースに、セミテーパー翼を採用したものです。また、1979年には、PA-28-201Tターボ・ダコタが登場しましたが、あまり売れず1980年に製造が中止されました。1978年には、ウォーリアが改良され、160馬力のチェロキー・ウォーリアII（PA-28-161）となり、空力的に改良されたホイールフェアリングが装備されました。1982年7月以降に製造されたウォーリアIIは、総重量が増加し、有効積載量も向上しました。

PA-32ファミリー

1965年には、PA-28を延長したPA-32チェロキー・シックスが開発されました。このモデルは、胴体が延長され、1人の操縦士と5人の乗客のための座席がありました。

海外での生産

PA-28は、ブラジルのエンブラエル、アルゼンチンのチンクル、チリの整備航空団でもライセンス生産されました。ブラジルではEMB-711 CoriscoやEMB-712 Tupiとして、アルゼンチンではチェロキー・アーチャー、ダコタ、アローなど960機が製造されました。

ニュー・パイパー・エアクラフト

パイパー・エアクラフト社は、1991年に破産を宣告されましたが、1995年にニュー・パイパー・エアクラフト社が設立され、現在はパイパー・エアクラフトとして操業しています。現在生産されている派生型は、180馬力のアーチャーLX/TXと200馬力のアローです。

設計の特徴

主翼

初期のチェロキーは、矩形翼（長方形の翼）を採用していました。この翼は、「ハーシーバー翼」とも呼ばれていました。1974年のウォーリアーから、セミテーパー翼に変更され、翼幅が拡大されました。矩形翼とテーパー翼の性能には大きな差はなく、テーパー翼モデルの性能向上は、主翼の設計よりもフェアリングとシールの改善によるものと考えられています。

フライトコントロール

チェロキー・ファミリーは、伝統的なフライトコントロールを採用しており、水平尾翼はアンチサーボ・タブを備えたスタビレーターです。フラップは最大40°展開できますが、セスナ172のフラップよりも効率が劣ります。エルロン、フラップ、スタビレーターはケーブルとプーリーで操作されます。操縦席には、操縦桿ではなく操縦輪があり、フラップは手動で操作します。スタビレーター・トリムは、初期のモデルでは頭上のクランクで操作していましたが、後にはフラップ・バーの後ろにあるトリムホイールで操作するようになりました。すべてのチェロキーには、操縦士側の計器盤の下にブレーキレバーがあります。初期のモデルでは、スロットル、混合比、プロペラ角度はノブで調整していましたが、その後、スロットル・クアドラントのレバーで調整するようになりました。

主な派生型

PA-28-140 チェロキー・クルーザー: 複座、固定脚の陸上機
PA-28-150 チェロキー: 4座、固定脚の陸上機
PA-28-151 チェロキー・ウォーリア: 4座、固定脚の陸上機
PA-28-160 チェロキー: 4座、固定脚の陸上機
PA-28-161 ウォーリアII: 4座、固定脚の陸上機
PA-28-161 ウォーリアIII: 4座、固定脚の陸上機
PA-28-180 チェロキー: 4座、固定脚の陸上機
PA-28-180 アーチャー: 4座、固定脚の陸上機
PA-28-181 アーチャーII: 4座、固定脚の陸上機
PA-28-181 アーチャーIII: 4座、固定脚の陸上機
PA-28-201T ターボ・ダコタ: 4座、固定脚の陸上機
PA-28-235 チェロキー・パスファインダー: 4座、固定脚の陸上機
PA-28-236 ダコタ: 4座、固定脚の陸上機
PA-28S-160 チェロキー: 4座、固定脚の水上機
PA-28S-180 チェロキー: 4座、固定脚の水上機
PA-28R-180 アロー: 4座、引込脚の陸上機
PA-28R-200 アロー: 4座、引込脚の陸上機
PA-28R-200 アローII: 4座、引込脚の陸上機
PA-28R-201 アローIII: 4座、引込脚の陸上機
PA-28R-201T ターボ・アローIII: 4座、引込脚の陸上機
PA-28RT-201 アローIV: 4座、引込脚の陸上機
PA-28RT-201T ターボ・アローIV: 4座、引込脚の陸上機

運用状況

チェロキー・シリーズは、個人オーナーや飛行クラブに非常に人気があり、32,000機以上が販売されています。

軍による運用

アルゼンチン：アルゼンチン沿岸警備隊
チリ：チリ空軍
フィンランド：フィンランド空軍（2005年退役）
カタール：カタール空軍

過去の事故

チェロキーは数多くの事故に関わっています。以下に主な事故を記載します。

1969年9月9日、インディアナ州上空で、アレゲニー航空853便のDC-9とPA-28が衝突し、両機の乗員乗客全員が死亡。
1972年8月28日、イギリスのエアレースで、グロスター公息ウィリアム王子が、PA-28チェロキー・アローで副操縦士とともに死亡。
1976年3月23日、東京都で、右翼活動家児玉誉士夫の自宅に、PA-28が突入し、操縦士が死亡、家政婦が負傷。
1986年8月31日、カリフォルニア州セリトス上空で、アエロメヒコ航空498便のDC-9とPA-28が衝突し、両機の乗員乗客全員と地上にいた人々が死亡。この事故をきっかけに、すべての航空機に空中衝突防止装置（TCAS）の搭載が義務付けられました。
2010年2月18日、テキサス州オースティンで、PA-28がオフィスビルに故意に激突。
2011年11月17日、アーカンソー州で、PA-28が墜落し、オクラホマ州立大学女子バスケットボールチームのヘッド・コーチらが死亡。

PA-28-140チェロキー140 (1964年モデル)の仕様

乗員: 1名（パイロット）
定員: 3名（乗客）
全長: 7.16m
全高: 2.25m
翼幅: 9.2m
翼面積: 15.14m²
空虚重量: 544kg
運用時重量: 975kg
有効搭載量: 430kg
最大離陸重量: 975kg
動力: ライカミング O-320-E2A 、113kW
最大速度: 230km/h
巡航速度: 200km/h
失速速度: 87km/h
航続距離: 870km
実用上昇限度: 4,400m
上昇率: 3.4m/s
翼面荷重: 64.4kg/m2
馬力荷重（プロペラ）: 0.116kW/kg

関連項目

PA-32
PA-44
エナエル T-35
森永製菓 - ホンダフライングクラブの運航により本機を宣伝機「フライング・エンゼル」として使用。

外部リンク

公式サイト（英語）
アロー
アーチャー
* Piper Cherokee and Arrow Safety Highlights PA-28 および PA-28R の安全性と事故に関するAOPAの報告

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