パジリク古墳群

パジリク古墳群：永久凍土が保存した古代の謎

ロシア南シベリアのアルタイ共和国、パジリク川沿いの標高1600m地点に位置するパジリク古墳群は、紀元前3世紀前半頃に造られたと推定される、大型円墳5基と小型円墳9基からなる大規模な墳墓群です。直径24～47m、高さ2～4mにも及ぶ巨大な積石塚は、その地下に長方形の墓壙を掘り、さらに内部に木製の墓室を設けた複雑な構造を有しています。墓室には、カラマツ材で造られた木棺に遺体が納められ、馬具をつけた馬が多数副葬されているほか、馬車が出土した例もあります。

年代をめぐる論争と放射性炭素年代測定

パジリク古墳群の年代については、当初紀元前5世紀とする説もありましたが、その後、紀元前3～2世紀とする説も登場し、論争が続いています。放射性炭素年代測定では、紀元前400±140年という結果が報告されていましたが、2000年の再測定では、紀元前383～332年、または紀元前328～200年の可能性が示唆され、年代測定の難しさが浮き彫りになっています。しかし、墓室に使用された木材の年輪年代法による分析結果から、大型墳5基は前後48年という短い期間に構築されたことが判明しており、これらを総合的に考慮すると、紀元前3世紀前半頃という年代が有力視されています。

永久凍土と驚異的な遺物保存状態

パジリク古墳群の驚くべき点は、遺物の保存状態の良さです。高地特有の寒冷な気候と、墳丘の特殊な構造（雨水が凍結し、墓室への熱の侵入を防いでいた）が、永久凍土環境を作り出し、有機物を含む遺物が驚くほど良好な状態で保存されることを可能にしました。盗掘を受けた形跡も確認されていますが、それでも、ミイラ化した遺体、馬の遺体、フェルト、織物、皮革、木製品など、通常では腐敗してしまう有機物が氷漬けの状態で見つかったのです。

多様な遺物と東西交流の証

出土した遺物には、土器や金属製品のほか、木、織物、皮革などを用いた衣服や生活用具、装身具などが含まれます。特に注目すべきは、スキタイ独特の動物文様であるスキト・シベリア様式を特徴とする紋様や、植物をモチーフにした紋様が多く見られる点です。これらの遺物は、パジリク文化の担い手に関する議論を呼び起こしています。ルデンコやアルタモノフは、イラン系のサカ族、つまり中国史料でいう月氏だと主張していますが、江上波夫らは地理的条件から異論を唱えています。

被葬者は、男女一組の合葬が原則で、長身でコーカソイド系の体格にモンゴロイド系の混血の可能性を示唆する特徴を持ちます。2号墳の男性遺体には、動物や怪獣などを表現した刺青が残っていました。副葬品には、西アジア産のコリアンダーの種子、ペルシャ産の毛織物や絨毯、エジプトからの宝飾品やビーズ、インド洋岸産の子安貝、中国産の青銅鏡、絹織物など、多様な地域からの遺物が含まれており、当時の盛んな東西交易を如実に示しています。これらの遺物は、西方のスキタイ文化の系譜に連なる動物文様で飾られており、東西文化交流の複雑さを物語っています。


パジリク古墳群は、永久凍土という特殊な環境によって保存された貴重な遺物群を通じて、紀元前3世紀前半の古代シベリアにおける生活、文化、そして東西交易の実態を鮮やかに描き出してくれる、重要な考古学的発見と言えるでしょう。今後の研究によって、さらに多くの謎が解き明かされることが期待されます。

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