パラオ放送局

パラオ放送局（ぱらおほうそうきょく）

パラオ放送局は、かつて日本の委任統治領であった南洋群島パラオ島（現在のパラオ共和国コロール州）に、1941年（昭和16年）9月に開設された放送局です。設立主体は、当時日本の公共放送を担っていた社団法人日本放送協会（現在の日本放送協会、NHKの前身）であり、日本の放送協会本部による直轄運営が行われていました。しかし、第二次世界大戦の戦況悪化に伴い、わずか3年足らずでその歴史に幕を閉じます。

この放送局の設立には、1930年代半ばから始まる南洋群島における電気通信整備計画が深く関わっています。1934年（昭和9年）に閣議決定された南洋群島開発調査委員会の設置を皮切りに、南洋庁は無線電信・無線電話と並行して放送施設の整備を検討し始めます。当初、南洋庁が1935年（昭和10年）に提案した計画では、パラオを含む主要な島々に中波による小規模な放送局を段階的に設置することが構想されていました。

同年10月、開発調査委員会は拓務大臣への答申で、サイパンまたはパラオへの相当規模の放送局新設を提言。同時に策定された財政計画では、パラオへの10kW放送局設置が1944年度からの開始を見込んで盛り込まれました。これを受け、南洋庁は1936年（昭和11年）に無線電信整備計画に放送局設置を織り込みますが、財源の都合から一旦計画は棚上げされます。

転機となったのは、1938年（昭和13年）の南洋庁長官による内地・南洋群島間の無線電話開設の発議です。この計画では、無線電話施設を活用して放送も実施する方針が立てられ、逓信省や海軍との予備交渉が進められました。1939年（昭和14年）に大蔵省の予算承認を得て、1940年（昭和15年）2月11日を目途に放送・電話業務を開始する運びとなります。放送業務は日本放送協会が、無線電話施設の建設・保守・運用は国際電気通信株式会社（現在のKDDI株式会社の前身の一つ）がそれぞれ担当することになりました。

国際電気通信によるパラオ放送局施設の建設は1940年（昭和15年）5月に着工。1941年（昭和16年）2月20日には逓信省から施設設置許可が下り、呼出符号「JRAK」が付与されました。同年3月には無線電話関連施設が竣工し、5月14日には内地との間の無線電話通話業務が短波10kWの出力で開始されました。そして、同年5月に局舎も完成し、いよいよ放送開始の準備が整います。

正式な放送開始は1941年（昭和16年）9月24日でした。放送は短波のみで行われ、無線電話通話業務と共用で使用されました。使用周波数は6090kc、9565kc、11740kcの3波で、いずれも出力は10kWでした。番組内容は、東亜中継放送の中継が主体でしたが、わずかにローカル番組も制作・放送されました。また、海外放送であるラジオ東京（現在のNHKワールド・ラジオ日本の前身）の一部も中継されていました。放送設備の拡充も計画されており、1942年（昭和17年）には、放送と通話の輻輳を解消するため、既存の10kW送信機を放送専用とする目的で、別途2kWの短波無線電話装置の増設工事に着手しました。しかし、この2kW送信機は1943年（昭和18年）に輸送中に船が遭難し、海没するという不運に見舞われ、設備拡充は実現しませんでした。

戦況が厳しさを増す中、1944年（昭和19年）5月1日には南洋群島の電気通信事業が南洋庁から国際電気通信に移管されます。そして、同年7月25日、アメリカ太平洋艦隊による第3次パラオ大空襲により、パラオ放送局の送信施設は壊滅的な被害を受け、放送機能は完全に失われました。この事態を受け、日本軍司令部と南洋庁の勧告に従い、パラオ放送局は同年8月1日をもって閉鎖されました。局舎を含む一切の施設は日本軍に接収され、放送局員たちは国際電気通信の受信所があったパラオ島ガスパン村へ退避することとなりました。短い活動期間ではありましたが、日本の統治下にあった時期の南洋群島における放送史の一頁を刻んだ放送局と言えます。

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