パラゴムノキ

パラゴムノキ：天然ゴムを産むアマゾンの恵み

パラゴムノキ（学名: Hevea brasiliensis）は、トウダイグサ科パラゴムノキ属に属する常緑高木です。アマゾン川流域原産のこの木は、その樹皮を傷つけることで得られる乳液、ラテックスが天然ゴムの重要な原料となることで知られています。和名と英名の「パラ」は、原産地であるブラジルのパラ州に由来します。

生育環境と特徴

パラゴムノキは、アマゾン川流域のバルゼアと呼ばれる浸水林に自生します。雨季には増水した河川によって水没する環境に適応しており、種子は水に浮いて分散します。

樹高は30メートルに達し、葉は3枚の小葉からなる複葉です。熱帯雨林にわずかな日差しの変化が訪れる春分や秋分の頃には、一斉に開花します。花は黄色いベル形で、ユスリカやアザミウマによって受粉されます。果実は熟すと裂開し、種子を散布します。

ラテックスの採取

パラゴムノキの最大の特徴は、ラテックスを産生することです。ラテックスは、水分中にゴムの微粒子が分散した乳液で、樹皮の乳液管に蓄えられています。木が傷つくと染み出し、傷口を塞ぐ役割を果たします。

ラテックスの採取は、樹齢5歳頃から始まります。幹にV字型や斜めの切り込みを入れ、そこから流れ出る乳液を容器に集めます。採取されたラテックスは、凝固防止剤を加えられ、金網でろ過された後、酢酸や蟻酸で凝固させます。これをローラーで加工し、シート状やクレープ状にして乾燥させたものが生ゴムとなります。

木材としての利用

近年、パラゴムノキは木材としての利用価値も高まっています。かつては、老木の材は腐朽菌に侵されやすく、乾燥による変形が大きいため、価値がないとされていました。しかし、乾燥技術や防腐技術の進歩により、集成材として家具やフローリングの材料として利用されるようになりました。

パラゴムノキは成長が早いため、ラテックス採取だけでなく、木材としての利用を目的とした植樹も増えています。リサイクル木材としての品質を高めるための工夫も進められています。

歴史

パラゴムノキは、古くからアマゾン川流域の先住民によって利用されてきました。18世紀にはヨーロッパに紹介され、ゴム製品の需要が高まるにつれて、その重要性が増しました。

1839年の加硫法の発見は、ゴム産業を大きく発展させました。ゴムの需要が高まるにつれて、パラゴムノキの栽培が原産地以外でも試みられるようになりました。イギリスは、ブラジルから種子を密かに持ち出し、自国の植民地で栽培を始めました。

その結果、パラゴムノキのプランテーションは、東南アジアを中心に広がり、世界的な天然ゴムの供給を支えるようになりました。しかし、一方で熱帯林の生態系に悪影響を与えているという指摘や、南米葉枯病の脅威も存在します。

パラゴムノキの課題と未来

今日、天然ゴムは、合成ゴムと並んで重要な資源となっています。しかし、天然ゴムの生産は、森林破壊や生態系の破壊、病害虫などの課題を抱えています。持続可能な天然ゴム生産のためには、これらの課題を解決していく必要があり、栽培技術の発展や、生態系に配慮したプランテーションの運営が求められています。

シノニム

パラゴムノキ属は以下の異名でも知られています。
Caoutchoua J.F.Gmel.
Micrandra Benn. & R.Br.
Siphonanthus Schreb. ex Baill.
Siphonia D.Richard ex Schreb.


参考資料
ジョナサン・ドローリ 著、三枝小夜子 訳『世界の樹木をめぐる80の物語』柏書房、2019年12月1日。ISBN 978-4-7601-5190-5。


関連事項
熱帯雨林
* モノカルチャー

もう一度検索