パルジャニヤ

パルジャニヤ：雨と生命を司るインド神話の神

パルジャニヤ（Parjanya）は、古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』に登場する雨の神です。サンスクリット語で「雨雲」を意味し、その名の通り、雨を操り、大地を潤す力を持ちます。マルト神群やインドラ神と性格が似ているとされ、自然の力を象徴する神々の一柱として崇められてきました。

『リグ・ヴェーダ』におけるパルジャニヤ

『リグ・ヴェーダ』には、パルジャニヤを讃える3つの独立した讃歌が存在します。これらの讃歌では、パルジャニヤはしばしば牡牛に例えられ、雨雲を呼び起こし、雷鳴を伴う恵みの雨を降らせる存在として描かれています。雨によって大地は潤い、生命が育まれることから、パルジャニヤは植物の保護者ともみなされています。彼は草木に種子を授け、芽生えを促し、豊かな実りをもたらすと信じられていました。

しかし、パルジャニヤは慈雨をもたらすだけでなく、荒々しい一面も持ち合わせています。彼は樹木を裂き、悪しき存在であるラークシャサを打ち倒す力も持っており、自然の脅威を象徴する存在でもありました。このように、パルジャニヤは豊穣と破壊という二面性を持つ神として、古代インドの人々に畏敬の念を抱かれていたのです。

「自律の王者」としてのパルジャニヤ

『リグ・ヴェーダ』の神秘的な讃歌（7巻101）では、パルジャニヤは「自律の王者」と呼ばれ、その中に生物、無生物を問わず、一切万物の生気が宿ると詠われています。これは、パルジャニヤが単なる雨の神ではなく、宇宙の根源的なエネルギーを体現する存在であることを示唆しています。また、別の讃歌では一度だけアスラ（悪魔）と呼ばれており、彼の神としての多面性を物語っています。

後世の文献におけるパルジャニヤ

後の叙事詩『ラーマーヤナ』においては、パルジャニヤはヴァナラ（猿）の一人であるシャラバの父であるとされています。これは、パルジャニヤの神話が時代を超えて語り継がれ、様々な物語に取り込まれていったことを示しています。

パルジャニヤは、雨という自然現象を通して、古代インドの人々の生活に深く根ざした神でした。彼は、恵みと脅威、創造と破壊という二つの側面を持ち、自然の力の偉大さと神秘さを象徴する存在として、現代においてもその名を知られています。

参考文献
ヴァールミーキ 著、岩本裕 訳『ラーマーヤナ』平凡社〈東洋文庫〉、1980年4月。ISBN 978-4-58-280376-1。
『リグ・ヴェーダ讃歌』辻直四郎訳、岩波書店〈岩波文庫〉、1970年5月。ISBN 978-4-00-320601-0。
* 菅沼晃 編『インド神話伝説辞典』東京堂出版、1985年3月。ISBN 978-4-490-10191-1。

もう一度検索