パンガー湾国立公園

パンガー湾国立公園（タイ語: อุทยานแห่งชาติอ่าวพังงา）は、タイ王国南部のパンガー県に位置する国立公園です。1981年 4月29日にタイ王国の官報により設立が公布されました。この公園は、そのユニークな地形と豊かな生態系、そして人類の歴史を物語る遺跡群によって知られています。

概要

パンガー湾国立公園は、総面積約400平方キロメートルに及び、その広大な領域にはタイ国内で最大規模を誇るマングローブ林が広がっています。1996年時点で、パンガー県内のマングローブ林は約30,442ヘクタールにおよび、これはタイ全体のマングローブ林面積のおよそ18パーセントに相当します。公園の範囲は、パンガー県のムアンパンガー郡からタクワトゥン郡にかけての沿岸部と、公園面積の約80パーセントを占めるアンダマン海海域部から構成されています。この海域には、タオ島、プラアートタウ島、ボーイノーイ島、ボーイヤイ島、ラーヤーリン島、パナック島、ホーン島、パンイー島、ピンカン島など、大小合わせて42の島々が点在しており、それぞれが独特の景観を見せています。この公園は、その貴重な生態系が評価され、2002年にはラムサール条約登録地となりました。

地理

パンガー湾地域の地形は、約1億3600万年前から3000万年前の白亜紀から第三紀初期にかけて形成された古い山脈が基盤となっています。この一帯に広く見られる特徴的な地形は、地質学的に「クローンマルイ断層」や「パンガー断層」と呼ばれる断層活動によって生み出されたものです。また、堆積岩や変成岩からなる山々も存在し、特に結晶片岩の山地は、場所によって小さな丘陵となったり、あるいは大きな山塊として残ったりしています。この地域を象徴するのは、主に石灰岩で構成されるカルスト地形です。雨水に含まれる二酸化炭素による化学的な浸食作用により、無数の穴やくぼみ（ドリーネ）、そして神秘的な鍾乳洞が形成され、独特の景観美を作り出しています。公園の西部地域は地殻沈降の影響を受けており、海岸線は複雑に入り組んでいます。湾内には、石灰岩でできた多くの島々が点在し、まるで海に浮かぶ奇岩の森のような景観を呈しています。

地質学者の研究によると、パンガー湾内の島々や岸壁の洞窟に残された貝化石の分析から、鮮新世から完新世にかけての海面水位の変動が明らかになっています。約1万1千年前の氷期には、海面水位は現在よりもかなり低く、現在島や岩礁となっている場所は陸地の一部でした。その後、約7,500年から8,500年前にかけて海面は徐々に上昇し始め、現在の平均水位よりも約4.5メートルも高い最高水位に達しました。約4,500年から5,000年前には海面水位は上昇と下降を繰り返す不安定な時期がありましたが、約2,700年から3,700年前には比較的安定し、それでも現在より約1.5メートルから2.5メートル高い水位を保っていました。約1,500年前でも、海面は現在より約1.5メートル高い状態でした。このような海面水位の変動は、この地域の地形や生態系、さらには古代の人類の生活にも大きな影響を与えたと考えられます。

1987年には、パンガー湾国立公園内のタオ山周辺で、先史時代の人類の移住を示す遺跡が発見されました。ここからは、当時の人々が埋葬したとみられる人骨が出土しており、この地域が古くから人類の活動拠点であったことを示唆しています。

先史時代の遺跡

パンガー湾国立公園とその周辺地域には、先史時代の人類が残した集落の痕跡が見つかっています。これらの遺跡の調査から、およそ1万年前にすでにクラビー県やパンガー県に人類が居住していたことが分かっています。当時の人々は、おそらく移動生活を送りながら、岩陰や洞窟を住居として利用していたと考えられています。海面水位の上昇に伴い、集落は分かれていったと推測されており、一部の人々はより内陸部へ移動し、また別の集団は筏や舟を作る技術を身につけ、パンガー湾周辺で漂流生活を送るようになりました。しかし、洞窟や岩陰といった居住地では、常に環境の変化に対応して住む場所を変える必要があり、最終的に海へと生活圏を広げる集落も現れたことから、この地域は必ずしも定住に適した土地ではなかったと考えられます。これらのことから、パンガー湾国立公園のエリアは、先史時代において人々の居住地、あるいは一時的な滞在地として利用されていたことが明らかになっています。キアン山（เขาเขียน）、パンイー島（เกาะปันหยี）、ラヤー山（เขาระย้า）、ナーガ洞窟（ถ้ำนาค）、プラアートタウ島（เกาะพระอาตเฒ่า）などが、先史時代の遺跡が存在する場所として推定されています。

パン山（เขาพัง）の遺跡からは、多数の石斧が出土しています。その他にも土器が見つかっており、無文、縄文、磨製、円筒形押型文、石斧による刻目文など、様々な文様のものが含まれていますが、特定の種類の出土量が極端に多いという偏りはありません。また、プラアートタウ島の遺跡からも、無文や縄文の素焼きの土器片、石斧、石製ナイフなどが見つかっています。

パンガー湾の岸壁には、古代の人々が描いた壁画が現在も残されています。その多くは線画ですが、彩色されたものも存在します。色のついた線で描かれたもの、対象物の実際の色を再現しようとしたもの、色を垂らしたり叩きつけたりして表現したものなど、様々な技法が見られます。使用される色は主に黒色と赤色ですが、他の色も少量ながら使用されています。描かれているモチーフとしては、人間や動物の姿が多く、例えば魚を担ぐ人、魚、エビ、オナガザル、鳥、ゾウなどが描かれています。また、無機的なモチーフとしては、護符のような文様、文字のような形、矢印のような図形、水生動物を捕獲するための道具、舟などが確認されています。これらの壁画は、当時の人々の生活、信仰、そして自然との関わりを示す貴重な手がかりとなっています。

パンガー湾国立公園は、その壮大な自然景観だけでなく、地球の歴史を示す地質学的特徴、そして数千年にわたる人類の営みの痕跡が共存する、類まれな場所と言えるでしょう。

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