フィリップ・ウェッブ
フィリップ・スピークマン・ウェッブ（Philip Speakman Webb, 1831年1月12日 - 1915年4月17日）は、イギリスを代表する建築家、そしてデザイナーです。彼は、特定の建築様式に固執することなく、地域ごとの伝統的な建築様式と、その土地で産出される材料を最大限に活用した、シンプルでありながらも機能的な設計を得意としていました。その姿勢から、「アーツ・アンド・クラフツ建築の父」と呼ばれることもあります。
ウェッブが採用したヴァナキュラー建築は、「民衆の建築」とも訳されるように、その地域に根差した生活様式や文化、環境が反映された、いわば「ありふれた建物の美しさ」を追求するものでした。これは、彼が建築を芸術として捉え、人々の生活に寄り添うものでなければならないという信念を持っていたことの証左と言えるでしょう。
オックスフォードで生まれたウェッブは、幼少期をノーサンプトンシャーのエインホーで過ごし、その後、ウォルバーハンプトンとバークシャーのレディングで、建築事務所にて設計と施工の実務経験を積みました。その後ロンドンに移り、建築家ジョージ・エドモンド・ストリートのアシスタントとして働きます。この時期に、運命的な出会いが訪れます。1856年、ウィリアム・モリスと出会い、1858年には自身の建築事務所を設立したのです。
ウェッブの代表作として特に知られているのは、1859年にウィリアム・モリスのためにロンドン南東部のベクスリーヒースに建てられた「レッド・ハウス」です。これは、彼のキャリアの初期の作品でありながら、その後の彼の建築思想を決定づける重要な作品となりました。また、キャリアの終盤には、ウェスト・サセックス州イースト・グリンステッド近郊に「スタンデン」という邸宅を設計しています。これらのカントリー・ハウスは、ウェッブが好んで手掛けた分野であり、彼の建築的才能が遺憾なく発揮されています。
レッド・ハウスは、その歴史的、建築的な価値から、グレーター・ロンドン・カウンシルによってブルー・プラーク（歴史的建造物を示す標識）が設置され、ウェッブとモリスの両人を記念しています。
ウェッブは、ウィリアム・モリス、エドワード・バーン＝ジョーンズ、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティと共に、1861年にモリス・マーシャル・フォークナー商会（後にモリス&Co.）を設立し、インテリア・デコレーション・ファニッシング事業を展開しました。この事業は、アーツ・アンド・クラフツ運動の重要な一翼を担い、ウェッブとモリスは、この運動の中心人物として活躍しました。
1877年には、歴史的建造物保護協会（SPAB）をモリスと共に設立しました。ウェッブは、SPABの活動に深く関わり、歴史的建造物の保全に関する重要な文書である「歴史的建造物保護協会宣言」をモリスと共に起草しました。彼は700回以上ものSPAB委員会の会合に参加し、その運営に貢献しました。また、ウェッブはモリスが創設した革命的な社会主義者同盟にも参加し、会計係を務めました。
カンブリアのブランプトン近郊にあるネイワース城のジョージ・ハワードは、ラファエル前派の芸術家たちと親交があり、ウェッブの熱心な支援者でした。ウェッブは、ハワードのために、ネイワース城の敷地内に「フォー・ゲーブルズ」と「グリーン・レーン・ハウス」という2つの住宅を設計したほか、ロンドンの邸宅である「パレス・グリーン1番地」も手掛けました。
また、ハワードの父であるチャールズ・ハワードは、ブランプトンに新しい教会を建設するために多額の資金を提供しました。建築家を選ぶ条件として、ウェッブが選ばれました。ウェッブが設計したセント・マーティン教会は、他のヴィクトリア時代の教会とは異なり、ほぼ正方形に近い形をしており、教会建築の常識を覆すものでした。この教会は、ウェッブが設計した唯一の教会であり、バーン＝ジョーンズがデザインし、ウィリアム・モリスの工房で製作されたステンドグラスが設置されています。
ミドルスブラの製鉄業者であったトーマス・ヒュー・ベルとの親交を通じて、ウェッブは3つの仕事を依頼されました。ロウントン・グレインジ（1953年に解体）、ガートルード・ベルが幼少期を過ごしたレッド・バーンズ・ハウス（1868年）、そしてミドルスブラのベル・ブラザーズのオフィスビル（ウェッブが手掛けた唯一の商業建築で、後にドーマン・ロングのオフィスとなった）です。
クリーブランド地域には、グレートハム村の北、ハートプールの近くに、1883年に完成した「ブリヤーミード」があります。隣接するセント・フランシス・コテージは、1895年にミドルスブラのW・F・リントンによってウェッブのスタイルで完成しました。
フィリップ・ウェッブは、1901年に仕事を引退しましたが、彼の建築思想は、ウィリアム・レサビーを中心とする「合理的な建築家の学校」や、グロスターシャーのサパートンを拠点とするアーネスト・ギムソンと建築職人のコミュニティに大きな影響を与え続けました。
レッド・ハウス - ウィリアム・モリスの自宅兼工房として建てられたカントリーハウス風の建築。
スタンデン・ハウス
モリス・マーシャル・フォークナー商会のデザイナーとして、ゴシック様式の家具、ステンドグラス、装丁、金工、ガラスなどのデザインも行った。
『生活と芸術－アーツアンドクラフツ展 ウイリアム・モリスから民芸まで』朝日新聞社（2008年）
* ウィキメディア・コモンズには、フィリップ・ウェッブに関するカテゴリがあります。
ウェッブが採用したヴァナキュラー建築は、「民衆の建築」とも訳されるように、その地域に根差した生活様式や文化、環境が反映された、いわば「ありふれた建物の美しさ」を追求するものでした。これは、彼が建築を芸術として捉え、人々の生活に寄り添うものでなければならないという信念を持っていたことの証左と言えるでしょう。
生涯
オックスフォードで生まれたウェッブは、幼少期をノーサンプトンシャーのエインホーで過ごし、その後、ウォルバーハンプトンとバークシャーのレディングで、建築事務所にて設計と施工の実務経験を積みました。その後ロンドンに移り、建築家ジョージ・エドモンド・ストリートのアシスタントとして働きます。この時期に、運命的な出会いが訪れます。1856年、ウィリアム・モリスと出会い、1858年には自身の建築事務所を設立したのです。
ウェッブの代表作として特に知られているのは、1859年にウィリアム・モリスのためにロンドン南東部のベクスリーヒースに建てられた「レッド・ハウス」です。これは、彼のキャリアの初期の作品でありながら、その後の彼の建築思想を決定づける重要な作品となりました。また、キャリアの終盤には、ウェスト・サセックス州イースト・グリンステッド近郊に「スタンデン」という邸宅を設計しています。これらのカントリー・ハウスは、ウェッブが好んで手掛けた分野であり、彼の建築的才能が遺憾なく発揮されています。
レッド・ハウスは、その歴史的、建築的な価値から、グレーター・ロンドン・カウンシルによってブルー・プラーク（歴史的建造物を示す標識）が設置され、ウェッブとモリスの両人を記念しています。
ウェッブは、ウィリアム・モリス、エドワード・バーン＝ジョーンズ、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティと共に、1861年にモリス・マーシャル・フォークナー商会（後にモリス&Co.）を設立し、インテリア・デコレーション・ファニッシング事業を展開しました。この事業は、アーツ・アンド・クラフツ運動の重要な一翼を担い、ウェッブとモリスは、この運動の中心人物として活躍しました。
1877年には、歴史的建造物保護協会（SPAB）をモリスと共に設立しました。ウェッブは、SPABの活動に深く関わり、歴史的建造物の保全に関する重要な文書である「歴史的建造物保護協会宣言」をモリスと共に起草しました。彼は700回以上ものSPAB委員会の会合に参加し、その運営に貢献しました。また、ウェッブはモリスが創設した革命的な社会主義者同盟にも参加し、会計係を務めました。
カンブリアのブランプトン近郊にあるネイワース城のジョージ・ハワードは、ラファエル前派の芸術家たちと親交があり、ウェッブの熱心な支援者でした。ウェッブは、ハワードのために、ネイワース城の敷地内に「フォー・ゲーブルズ」と「グリーン・レーン・ハウス」という2つの住宅を設計したほか、ロンドンの邸宅である「パレス・グリーン1番地」も手掛けました。
また、ハワードの父であるチャールズ・ハワードは、ブランプトンに新しい教会を建設するために多額の資金を提供しました。建築家を選ぶ条件として、ウェッブが選ばれました。ウェッブが設計したセント・マーティン教会は、他のヴィクトリア時代の教会とは異なり、ほぼ正方形に近い形をしており、教会建築の常識を覆すものでした。この教会は、ウェッブが設計した唯一の教会であり、バーン＝ジョーンズがデザインし、ウィリアム・モリスの工房で製作されたステンドグラスが設置されています。
ミドルスブラの製鉄業者であったトーマス・ヒュー・ベルとの親交を通じて、ウェッブは3つの仕事を依頼されました。ロウントン・グレインジ（1953年に解体）、ガートルード・ベルが幼少期を過ごしたレッド・バーンズ・ハウス（1868年）、そしてミドルスブラのベル・ブラザーズのオフィスビル（ウェッブが手掛けた唯一の商業建築で、後にドーマン・ロングのオフィスとなった）です。
クリーブランド地域には、グレートハム村の北、ハートプールの近くに、1883年に完成した「ブリヤーミード」があります。隣接するセント・フランシス・コテージは、1895年にミドルスブラのW・F・リントンによってウェッブのスタイルで完成しました。
フィリップ・ウェッブは、1901年に仕事を引退しましたが、彼の建築思想は、ウィリアム・レサビーを中心とする「合理的な建築家の学校」や、グロスターシャーのサパートンを拠点とするアーネスト・ギムソンと建築職人のコミュニティに大きな影響を与え続けました。
作品
建築
レッド・ハウス - ウィリアム・モリスの自宅兼工房として建てられたカントリーハウス風の建築。
スタンデン・ハウス
その他
モリス・マーシャル・フォークナー商会のデザイナーとして、ゴシック様式の家具、ステンドグラス、装丁、金工、ガラスなどのデザインも行った。
参考資料
『生活と芸術－アーツアンドクラフツ展 ウイリアム・モリスから民芸まで』朝日新聞社（2008年）
脚注
外部リンク
* ウィキメディア・コモンズには、フィリップ・ウェッブに関するカテゴリがあります。
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