フィリポによる福音書

『フィリポによる福音書』、または『ピリポによる福音書』として知られるこの文書は、1945年にエジプトで発見されたナグ・ハマディ写本群の中に含まれていました。これは初期キリスト教のグノーシス主義的な思想を色濃く反映した文書であり、新約聖書の正典には含まれなかった外典の一つです。

文書の概要

この文書はコプト語で書かれており、その起源は2世紀後半の東シリアであると考えられています。文書名には「フィリポ」とありますが、これは本文中に使徒フィリポの名前が一度だけ登場することに由来するもので、特にフィリポが著したという証拠はありません。

『フィリポによる福音書』は、他の福音書とは異なり、イエスの生涯や教えを物語形式で詳細に記述したものではありません。むしろ、箴言、戒め、論考などを集めた抜粋集のような形式を取っています。そのため、話の一貫性は必ずしも高くなく、グノーシス主義的な視点からキリスト教の教義や思想が展開されています。

マグダラのマリアに関する記述

この福音書が特に注目される理由の一つに、マグダラのマリアに関する記述があります。文書の中では、マグダラのマリアがイエスの「伴侶」として紹介されており、「イエスが彼女を他の弟子たちよりも愛していた」という記述が記されています。この内容は、マグダラのマリアとイエスの関係について、従来のキリスト教の解釈とは異なる視点を提供しています。マグダラのマリアに関する記述は、文書内で2カ所確認されています。

文書の形式と内容

『フィリポによる福音書』は、福音書という名称が付いているものの、他の福音書のような物語形式ではなく、箴言や論考を集めた形式を取っています。そのため、イエスの言行録は比較的少なく、キリスト教的な思想や教義をグノーシス主義的な視点から解釈した内容が多く含まれています。文書の形式は、断片的で一貫性に欠ける部分もありますが、グノーシス主義の思想を理解する上で重要な資料となっています。

結論

『フィリポによる福音書』は、その特異な内容とマグダラのマリアに関する記述から、多くの議論を呼んできました。この文書は、初期キリスト教における多様な思想や解釈を示す貴重な資料であるとともに、正典に取り入れられなかった外典の存在を理解するための重要な手がかりとなっています。

参考文献

荒井献、大貫隆ら　『ナグ・ハマディ文書II 福音書』　岩波書店、1998年 ISBN 4000261088

関連項目

ナグ・ハマディ写本
グノーシス主義
外典
* トマスによる福音書

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